夕暮れが赤いなら、朱い朝日は君に昇る

相対・切断・『アヴァロン』

 夜も更け、まばらになった喧騒の中を走る。走る。

 途中エクスに念話を飛ばし、合流。『エントランス』へ。


「デザイア、ラヴァンドラがどこにいるかわかる?」

『言いたくない』

「大丈夫。ボクは勝つから」

『言いたくない』

 駄々っ子さんめ!


 こうなったら、片っ端から探すしかない。

 手始めにデザイアと初めて会った『チュートリアル』へ……向かおうとすると、足が止まった。足に食い込んだ精霊銀に干渉しているワガママさんがいるようだ。


「なにビビってんの」

『さっきまでのボクと一緒だよ』

「じゃあ、キミもいまのボクと一緒」

 手枷の片方に、彼女の手を嵌めるように。

 やれやれ、というため息を聞きながら、ボクは扉を開けた。


◆◆◆


 最奥。

 「おつかれ」の看板を横切り、継承の間へ。


「立ち上がったか……」

 鈍く光る玉座に座り込むシャンバラ……もとい、ラヴァンドラ。精霊銀でカタチを真似ているだけで、肉体はないようだ。


「冒険者で、王位継承者だからね」

「そうか」

 ひどくつまらなそうに、ラヴァンドラは手をかざした。

 ボクの両腕が取れる。

 またか……。

「それじゃボクは止まらない」

 念じると、腕が戻った。


「お前のせいで苦しんでる人がいるんだよ」

「必要なことだ」

「お前のせいでアサナちゃんが悲しんだ」

「必要なことだった」

「お前のせいで、リオンちゃんとベルさんが傷ついた!」

「必要な――」

「――そんな必要、どこにあるんだよ!」

 あるわけない。あっていいわけないだろ、人がつらい思いをする必要なんて! この二日くらいホントキツかったんだからな!


「ここに在る」

 ラヴァンドラが中空を握り潰すと、ボクたちは『チュートリアル』から『エントランス』に移動していた。


「――精霊銀による魔力制御か……!」

 ダンジョンは、突き詰めて言えば膨大な魔力によって歪んだ空間だ。その量と複雑な構築式から、そういうものとして扱われている代物。

 しかし――ガオレオンは改造していた。ラヴァンドラとガオレオンは接点がある。説明がつかないわけでもないが……めちゃくちゃだ!


「君たちが挑むダンジョン……その『先』に、なにも価値はない」

 などと言い切りやがった。

「貴方のような冒険者が国を治めれば、攻略はより盛んになるだろう。それは民のためにならない」

「なワケないだろ! じゃあ、なんのための未踏最前線フロンティアなんだよ!」

「我が国家を支える『資源』である」

 ……視座が違う。話にならない。


「話にならないな、ラヴァンドラ」

「継承の儀はやり直しだ。予定通り貴方を殺して、次期王位継承者を見つけるしかない――」

「――で、王サマ自ら出てきてくれたわけだ。ご苦労様!」

 殺されるのはまっぴらだ。


「"輝け"『銀の腕アガートラム』ッ!」

「"跪け"『我が名の下にディスペア』」

 一瞬の衝突。

 弾け合う魔力は大気を裂いて、ざらざらとした感触がボクの両太ももを走る。


 斬ら、れた。

 ボクが押し負けた……!


「っ…………!」

 認識より先にデザイアが繋いでくれた。

「ボクのスカートは⁉︎」

『言ってる場合か!』

 ブーツは切れてないからいいとして、いつも脛丈まであったダブルプリーツがいまや見る影もない。こんなの履いてるの、バカだよバカ。


「足が無ければ、進まなくて済んだのに」

「進まなくてもいい理由はないし、掴まくてもいい理由はないだろ。這ってでも進んで、咥えてでも掴み取るだけだよ」

「気に食わん」


 三度、中空の把持挙動。

「無駄だラヴァンドラ」『無駄だディスペア』

 一閃、その腕を斬り落とす。

 だがヤツもボクと同じ精霊銀の体。いかにエクスの剣エクスカリバーで斬ったとしても、数秒あれば回復するだろう。


 それだけあれば足りる。

「エクス!」

『任せて、マスター!』


 ざあ、と風が吹く。

 芝生の青臭さ。湖の涼やかさ。両線の向こうから吹く血風。

 『エントランス』でのみ発動可能な、『アヴァロン』の強制展開だ! 


「う、おおォぉお!」

 虚空を握り、振り抜く。

 ラヴァンドラに袈裟の傷ができて、ボクの手にはエクスの剣エクスカリバーが握られていた。

 『アヴァロン』はインテリジェンスであるエクスが司る空間。その中の魔力は、マスターであるボクのもの。このダンジョン内において、エクスカリバーは空気も同然。握れば掴めるし、開けば放せる。


 更に、空属性+『デザイア』による魔力操作。なにもないところに剣を作り出し、それを木の葉のように舞わせ、怯みきったラヴァンドラの体を刻んでいく!

 キッサキの一つが、何かの核に触れた――!

 

 

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