彼女の資質と淡白な蛋白(アサナ視点)

 数日後。

 ダーツ料理、ということで、ニライさんにお越しいただきました。


「あらあら。冒険者さんの集まる酒場、というからにはもう少し野蛮で汚いかと思っていましたが……大変清潔ですね! 感動いたしました!」

「あー、うん。いい意味で言ってるんですよね?」

「もちろん」

 ぼわぽわ系で相殺できるギリギリの失礼だった。


「わ、私は別に……食欲に負けたわけではないのですけれども!」

 来賓はアサナちゃん。末妹とはいえシン王国の者が太鼓判を押したとなれば、王都でもダーツ料理はバカ受けだろう!


 そんなわけで今回、品評会ということで酒場を借してもらっている。ほかのギルドの冒険者たちにも振る舞い、ニライさんのお店の宣伝をするというわけだ。



◆◆◆



"明後日、酒場に来てほしいんだ。用? 特にないよ。ご飯食べるだけ"


 リセさんから久しぶりに連絡があったと思えば、これです。


 まさか二人きりのお食事⁉︎ と思いきや、その場にいた全員に魔物を使った新しいメニューの発表会……それも、レストランの依頼とのこと。そこまでしますか? え、私を呼んだのはついでなんですか? リセさん⁇


「顔怖ェぞ、お嬢さま」

 同席のリオンさん。ゴルドプラウドの長女で、『 金獅子姫』の異名は私の耳にも届いています、大柄で粗野なイメージでしたが、所作の端々に上品さが覗いています。


「祝いの席であるぞ、アサナ嬢。にっこり、スマイルスマイル」

 グラッドグルーム郷の一人娘、ベルさん。カッコいい……という第一印象は、全てアホなのだな、と包み込まれてしまいました。


「エヘッ、エヘヘヘヘッ……。エ、エクスちゃん、ほっぺほっぺ。ソースついてる……」

「拭かせてあげる」

「フ、ヘヘヘッ……!」

 魚の魔物……ダーツとやら……の捕獲に協力してくれたというイヴ・アガペーさんは、顔も見えないほど真っ黒です。鎖骨や手首が少し露出しているのがチラリズムでセクシーですがその異様で帳消しだ。時折見せる目元からとても整った顔立ちなのでしょうけど、もったいない。


 エクスちゃんは相変わらず魔性です、――聞けば、彼女がリセさんに忠誠を誓ったという『アヴァロン』には、美女より美しい美少年が現れたとして、多くの冒険者たちの性癖を破壊したのだとか。


「いっぱいあるから、たくさん食べていってねー!」

 リセ・ヴァーミリオンさん。

 あの日私の手を取り、王位継承権を得た女性。

 素敵な人だとは思っていましたが、この頃は特に、彼女になら次期シン王国を任せてもいいと思っている私がいる――私の野望はどうする――。


「リセさん。このたびはこんな素敵な席に招待していただき……」

「いいよ、そういうの。友達でしょ」

 たくさんの皿をテーブルに置いて、リセさんはキッチンに戻って行ってしまいました。


「とも……だち……」

 好き……!


「お嬢ォ、早く食べないとなくなるぞ」

「あっ、アッ……!」

 もう半分くらいなくなっています……!


「こ、これは戦争ですよ、アサナ様……!」

「意地汚いと言ってくれるなよ、アサナ嬢。リセが作った料理だ、奪り合わなきゃウソである」

 さすが肉体派……食事の勢いが強い。


「あーこらこら、ケンカしないで。アサナちゃん、こういうの苦手だった? ごめんね。取り分けといたから、ゆっくり食べてね」 


 ……!


 一口。食べたことない食感、味です。

 二口。淡白な風味と、口の中で解ける蛋白。

 三口。ようやく追いつく、ざくざくとした香ばしい衣。

 四……あれ?


「え、もうない……⁉︎」

「ほォばるお嬢さまが見られるとはなァ」

「いい顔だったぞ、アサナ嬢。吾輩の次にな」

「……し、失礼しました……」


 ……。

 …………。


 しばらくして、食材が尽きたということでお開きに。


 エクスちゃんはリセさんの手伝いに引っ張られていき、イヴさんは『うずしおの回廊』という今回の食材が獲れるダンジョンの記録をまとめるため記録。私とリオンさんベルさんは、片付けをするリセさんを待つためにまだ席についています。


「あの、お二人はリセさんのことどう思います……?」

「あァ、お人好しだよな」

「お人好しであるな」

「えぇ、まぁ……それはそう、ですね」 


 そうなのですが。


「ではなく、王位継承者として……です」

 二人は七大貴族の御息女です。この二人がリセさんを支持するとなれば、大きな助けになるでしょう。


「ん? あァー……。リセがなるって言うなら、アタシは応援するよ」

「そうでなきゃ吾輩たちは『赤の夕暮』に入っていないからな」


 あれ。

 思ったより全肯定でびっくり……です。


「なぜ、ですか?」

「その質問は野暮であるな」

「である、だなァ。今日この酒場に来た連中で、正式に継承権を持ったリセが王サマになるって言って反対するやつはいねェだろ」


「それもそう、ですね。変なことを聞いてごめんなさい」

「それに、アイツが王サマならアタシの政略結婚も安泰だしなァ」

「けッ……」


 結婚⁉︎


「リオンちゃんもか? 同性同士、しかも重婚となるとリセがどう思うかだが……なんだかんだ受け入れてくれるだろう。……ふはは」

「だなァ。ま、そんときゃそんとき話すよ」


「けっ、ケケ、ケッ……⁉︎」


 ――"おはよう、アサナちゃん。可愛い寝顔だったね"

 ――"アサナちゃん。……ふふっ、呼んでみただけ"

 ――"アーサナちゃーん! この書類どうしたらいいのーッ⁉︎"

 ――"おやすみ……にはまだ早いよね、アサナちゃん……?"


「え、えぇ、まぁ。ソントキャソントキ……ですね」

 お二人は……味方としては心強いですが、その実強敵かもしれません……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る