服従・警告・誘導

 倒れ伏したガオレオンを見下ろす。


「………………」

「なんか言えよ」

 リオンちゃんとベルさんを邸宅内(青天井になっちゃったけど)のやたら大きいベッドに寝かせたボクは、カクつく足でガオレオンの様子を見に来た……のだが。


「………………」

 頬を大きく腫らしたハカセは、重々しい眼差しを空に向けるばかりだ。


「なぁ、おい」

「あぁ、すまない。話すことをまとめていてね」

 結構悠長というか、余裕あんなコイツ……。


「うん。まず、二人の怪我は心配しないでくれ。この『テラス』を改造した時点で、治療・回復もできるようにしている」

「そう」

 それを聞いて安心した。


 長くなりそうなので、ボクはガオレオンの向かいに腰を下ろす。


「リセ・ヴァーミリオン。これは言い訳ではないのだが」

「なに」

「これから君に起きるだろうことについて、だ」

 これからってことはないだろ。もうメチャクチャだぞ。


「ラヴァンドラ・シン=スカーレット陛下には決して歯向かうな」

「シン陛下に? なんでボクが?」

「君が次代王位継承者だからだ」

 ちょっと遠大な話な気もするけど、ガオレオンの眼差しは本物だ。


「リオンたちには悪いことをしたとは思わない。二人は……リセ、君が王になるならその助けになると言っていたよ」

「それは……どうも」

「手荒い説得にも応じてくれなかった。それに、僕では君自身に諦めさせることも叶わないだろう」

「…………」

「だから、忠告しかできない――」

 瞳の奥に、怯え。いや、絶望に似た暗澹が澱んでいる。


「陛下に逆らってはいけない。僕みたいに大切なものの順序を間違えたくなければ、絶対に」

「『デザイア』を手放せってこと?」

「そんなことをしたら、君の肉体を補填している精霊銀の制御ができなくなって死ぬぞ」

「うえぇ……」

 そうだぞ、とデザイア。

 手放すつもりは毛頭ないけどさ。


「でも、ボクは陛下と対立するんだろ? よくわかんないけど。それで、その警告を聞いてどうしろってんだよ」

「僕にもわからない。どうすればいいのかも、なにもかも……。だからこそ、僕にできること……ダンジョンを改造して……リオンやベルちゃんに怖い思いをさせてまで……冒険者の人たちにも悪いことをした…………」


 一つため息をついて、ガオレオンは手元に転がっているガラスの破片を手に取った。……魔力を込めた小石を弾き飛ばし、粉砕。


「……アンタに事情があることは、……飲み込むわけにはいかないけど、わかったよ。陛下がアンタに何かしたっぽいのも察する」

「リセ……?」


 待て待て。

 何を言おうとしてるんだ、ボク。


「シン陛下にはボクが話をつける。王位継承者ってんだから、挨拶もしとかなきゃだろうし。だからアンタは、それまでにリオンちゃんとベルさん、巻き込んだ冒険者に頭を下げておいて」


「……許されることをしたとは思っていない」

「当たり前だろ。でも、それと仕方がないとか助けてやるもんかってこととは繋がらない」

「――」


「そんなに怖いんなら、それが罰だ。つらくても前を向いて生きなよ。そうじゃないと、絶対許さないから」

「……………………仰せの通りに」

「そういうのはやめて」


 機せずして、なんか反抗する流れになってしまった。なってしまったというか、ボクがそう決めたんだけど。

 まさかこんな早く流れになってしまうことになるとは。



◆◆◆



 ガオレオンがリゾートダンジョン『テラス』を借りたのは四日。ウゼンとサシロに聞くところによると、多少骨が折れたくらいの怪我なら、二日もあれば治るらしい。


 正攻法では契約したガオレオンの認めていない人物は『テラス』に干渉できない。四日。四日かぁ……。


 ガオレオンはシン陛下を恐れている。だからこその籠城だろう。


「なんか転がされてるなぁ」

 という印象だ。


 王都まではちょっと高めの竜車で半日。

 話をして帰っても、かかって三日……くらいかな。


「やだねぇ、頭のいい奴ってのは」

 しかもしたたかだ。


「はぁ。行くか、王都」


 時間の猶予がどれだけあるかもわからない。

 ご丁寧にリオンちゃんとベルさんと、ついでにガオレオン自身の安全が確保されている、いまがチャンスだ。

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