追跡・吊・私闘

 お嬢さまたちの足取りは、魔力で追える。


 なんせ七大貴族の血統術式を持つ二人なのだ。一際ヤバそうなのが二つ並んでいる跡を見つければいいだけである。……得意げに言っているが、これはボクの三割だという精霊銀の高い感応性のおかげだ。

 目がこうなっちゃったのはアレだけど、これだけ便利ならむしろ万々歳だ。大体の人や物には魔力があるしね。なんとかなるはずだ。こわくないぞ。


「全部で……五人……?」

 連盟本部の遣いを名乗ったやつらは、見るに三人ほど。リオンちゃんとベルさんを囲むように移動している。


「三人であの子たちをどうかできるわけないしなぁ……」

 痕跡を辿りながら、どういうことなのか考えてみる。


 ――まず思いついたのは誘拐なんだけど、リオンちゃんとベルさんになにかしようとするなら、武闘派ギルドの勇者を五人は集めないと話にならないだろう。


 魔力からすると、この三人はそれほどの冒険者ではない。害意を見せた途端返り討ちに遭うだろう。


 ――次に、勧誘。荒っぽかったりアホの子だったりするけど、こと戦闘においては相当な実力がある。用心棒役としても申し分ない。

 それならわざわざ連盟の名前を騙るか? ……ないよなぁ。


 ――あるいは、本当に連盟の人。

 いやいやいや。『赤の夕暮』でたむろしてるんだから、ボクに話を通すだろ、普通。


「えぇー……?」


 ダンジョンのエントランスに着いてしまった。

 三人のうち二人は案内役か。エントランスのあたりで痕跡が離れている。


 しかしなぁ……。


 クロじゃんこんなの。

 わかりやすすぎて面白くなってきたな。



◆◆◆



 ダンジョン『テラス』。

 発見・確定以降、セレブが別荘として楽しむオシャレスポットである。


 開放型の……迷宮構造による魔力ロス削減をしない、特に強大な魔力を有するダンジョンで、湖畔に白い家が一軒のみ。魔物とかも出ないし、……これもインテリジェンス絡みなんだろうか。


 さておき。


「おっ邪魔しまぁーす……」

 本来一グループしか入れないのだが、それはそれ。デザイアによる解析と精霊銀による改ざんで侵入させてもらった。


 ……。


「やってくれたな」

 我ながら、静かな怒りである。自分にこんな一面があったのか、などと冷静にもほどがあるくらいだ。


「…………」

 ――湖を望む大きな木には、リオンちゃんとベルさんが吊るされていた。

 特にリオンちゃんの怪我はひどく、頬が腫れ上がり、指も数本変な方に曲がっている。


「…………」

 ベルさんの赤いティアドロップのサングラスも割られている。服のあちこちには不自然な焦げ痕も見られた。


 二人とも意識を失っているようで、微かに息をするばかりだ。……喉もやられているのか、リオンちゃんの方はヤギの鳴き声のようだけれど。


「…………」

 ――――。


「…………」

 ――――。


「ダメだ。やっつけちゃお」


 正直、油断していた。

 "あの人"は、リオンちゃんやベルさんを傷つけるような人物ではないはず……だった。


 ボクの決断を、リオンちゃんは悲しむだろう。でもダメだ。こんなことするヤツのために、あなたは悲しんじゃダメだ。


 やるぞ。


 そうと決まったら、まずはこの邸宅だ。

 必殺パンチを寸止めにすることで、拳圧によって木造二階建てを吹き飛ばす。


「やれやれ。ずいぶんと遅かったじゃないか。いや、早かったのかな?」

「ガオレオン・ゴルドプラウドォッ!」


 涼しい顔で足を組んだままの金髪男。


 彼こそリオンちゃんの兄であり、七大貴族ゴルドプラウドの長男、ガオレオン・ゴルドプラウドである。


 その、全部わかってます、みたいなスカした顔がボクの癪に障った。


「お」

 体重を前へ。


「ま」

 倒れ込むように、突進。


「え」

 拳を振りかぶる。


「がああぁぁッ!」

「そうだけど?」


 いつの間にかボクは転んでいた。


「それがどうかしたのかな」


 転ばされたのだ。


 右手首に、いつの間にか輪状にアザができている。何かとてつもない力で握られたのだろう。


「どうもこうもないだろ」

 右手の指の爪は、普段は偽装しているが精霊銀だ。魔力で飛ばした三枚のうち一枚が、戦い慣れしていないだろう頬を掠め、血を流させた。


「っ……なかなか」

「へぇ。お前みたいなヤツでも、血は赤いんだな」

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