仕入れ・不在・受付嬢
あの二人を『赤の夕暮』で面倒見ることになったので、歓迎会がてらちょっと豪勢な料理でも出そうと、商店街の方へ足を伸ばした。
「なんか食べれないものとかあるのかな」
食べる人のことを考えるのは、料理のスタートラインである。
でもなんか、リオンちゃんもベルさんもなんでも食べそうな印象だ。舌が雑とかじゃなくて、なんでも美味しく味わえる感性と言うべきか。
「オーク肉の塩漬けじゃん。すみません、これくださーい」
「あいよ! お、リセちゃんじゃないか。最近酒場にいないけど、ギルドの方は順調なのかい?」
肉屋のミィちゃんだ。
特技は吊るした肉をイイ音で叩くこと。素人目……耳に聴いても質の良さを知らしめる、ゴッドハンドの持ち主である。
「うん。新しく入ってくれる子がいて、今日は歓迎会するんだ」
「そりゃあそりゃあ! メニューはどうするんだい? イイトコ出すよ」
「いいの? うーん…………まだ決まってないんだよね。じゃあさ、今日一番イイのどれ?」
「オークのなら肩肉だね」
パァンッ! と素晴らしい音が響く。
「肩肉にしては脂の乗った音だね」
「お、いい耳してるね! なんせ養殖オークのサンプルとして卸されたモンさ。どうだい?」
養殖オークってなんだよ……。
しかし、そのおかげで本来固い肩肉に脂身があるというのだ。食べてみて、美味しかったら流行ってほしい。
「うん。スープにしたら美味しそう。ありがとミィちゃん」
三割増くらいの値段がしたが、祝いの席だ。奮発してしまおう。
「美味しかったら教えるね」
「おうさ。リセちゃんのレシピがもらえるなら、割高分は負けてやろうじゃん」
やったぜ。
◆◆◆
大荷物になってしまったが、無事帰って来れた。
養殖オークの肩肉のあと、ダンジョン産のなんかよくわからない野菜や香辛料、あと普通のパンを購入。冒険者デビューに相応しい、アドベンチャーな食卓になるだろう……!
「ただいまー!」
……。
「マスター、おかえり。早かったね」
「ただいま、エクス。リオンちゃんとベルさんは?」
二人がいないのにボクの鞘であるはずのエクスがお留守番しているのは、狂犬であることもあるけれども、大部分はウゼンとサシロのせいだ。
アイツら、この前ここに来たとき受付嬢になってたエクスを褒めまくってくれたらしい。ありがたいことだ。で、気をよくしてからずっとこう。まぁいいんだけどさ。
「あの穀潰したち……んんっ、食っちゃ寝たちは、連盟本部の遣いだかと出かけたよ」
言い換えたけど変わってない。変わってないからね。事実だけど。ギルドメンバーとして雇って、仕事回してあげられなかったボクのせいだから。
「本部の……?」
しかし、はて。
ボクはついさっき連盟に届出をしたばかりだ。その件でのことなら、入れ違いになるのはおかしい。もしや、何かやらかしたか。ブッチした件も特になにも言われなかったぞ。
「…………」
「マスター?」
「なんかヤな感じだな……」
具体的なものではないけど、予感なんてそんなもんだ。
「エクス、コレ片付けといて!」
「仰せのままに。……エクス、また急に呼ばれたりする?」
「しないで済むならそうしたいけど……」
念のため、エクスの髪をおさげにまとめている青いリボンを借りていこう。念のためね。
「このリボン、エクスだから」
「それは解釈が大きいよマスター」
「いいのいいの。お守りってことで」
これも予感からくるものだ。
「どう、似合う?」
「似合わない」
「だよねー」
リボンが似合わない女の子なのだ、ボクは。
「じゃあごめん。少し借りてくね」
「いってらっしゃーい……ませ」
うん。
良いな、受付嬢エクス。
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