肉・現地調達・肉

 お腹が空いてきたということは、そろそろ『覇者の迷宮』に入って半日が過ぎたころだろう。

 ダンジョンの中と外では時間の流れが違う。魔力の濃度が違うからなのか、……確か文献があったはずだけど、まぁいいか。


 デザイアは、ボクがまぁいいかと思ったことについては教えてくれない。あくまでボクの知識"欲"によだれを垂らしているだけだからな、コイツ。リオンちゃんにバレたらまずいから、今回はできるだけ使わないようにしたい。


「次の魔物を倒したらごはんにしよう」

「ン? あァ、もうそんな感じか」

 壁を二枚抜いたくらいで、今度はオークに出くわした。


 あー、まぁ、いっか。


「リオンちゃんはこれからも冒険者続けるつもり?」

「一応な。その方が兄貴の役に立つし」


「……」

「ンだよ、意外そうな顔して」

「ごめん。お兄ちゃんっ子だろうなー、とは思ってたけど、照れたりすると思って」

 ギャップというやつだ。ガオレオン氏、果報者である。


「照れ……? そォいうことか。リセが聞きたいなら、いくらでも兄貴の話してやるよ」

 こんな妹が欲しかった……!


「あとでゆっくり、じっくり聞かせてください。それはもうねっとりと」

「いや、普通に話すけど……」


「で、お腹空いたときの戦い方についてなんだけど」

「?」

「魔物を倒すときは構成核を破壊するのがセオリーなんだけど、食糧にする魔物はまず、食べたいところを切り離してから倒します」

「なんて?」

「まぁ、見ててよ」


 すごいパンチだと核ごとやっちゃうので、加減して、切る感じの、えっと、すごい……すごい……えっとぉー……

「すごいチョップ!」

 と、オークさんの喉と右太ももを断つ。喉を狙ったのは悲鳴がうるさいからだね。欲しいのは太もも。


「ぎゃ、ギャギャ……」

「よし。欲しいとこが取れたら核潰してもいいよ」

 倒れ込んだ胸の辺りに爪先で蹴りを入れる。再結晶化反応を起こして、オークは砕け散った。


「こうすると、残るわけだ」

「へェー……。で、残してどうするんだ?」

「血は後で飲めるようにボトルに入れておこう」

「ハ?」

 新たに小さく鋭い傷をつけて、そこから貴重な水分を拝借。


「周りの安全を確認したら、火種代わりにロープを少し解いて火をつけよう」

「あァ、だな……」


「肉を適度に切り分けて、じっくり加熱すると、二、三日は保つようになる」

「ハ?」


「オークの肉は火の通りも保ちもいいから、腕に覚えのあるリオンちゃんなら狙い目だね」

「いや、待てよ」


「? 焼きたてが一番美味しいよ?」

 適度に焦げ目のついたオーク肉は、とても芳醇な香りを放っている。このオーク肉を獲るためにギルドに依頼するグルメもいるほどなのだ。


「いやよォ……くそっ、美味そうなのが腹立つ……食っても平気なのかよそれ」

「うん。もぐ、……美味しいよ」

 ボクが食べてみせてもまだ及び腰なリオンちゃん。思い返すとボクも……いや、そうでもなかったな。マジで餓死寸前だったからね、あのときは。


「食べなきゃ死んじゃうから、食べて」

「……あー、もう! 覚えてろよォ!」

 腹を括ったリオンちゃんは、豪快に行った。


「うっ……」

 一つ呻いて、はしたないと口元を抑え、よく噛んで飲み込む金髪令嬢。


「うまいッ!」

「でしょ⁉︎」


 二切れ、三切れと豪快かつ上品に食べるリオンちゃん。保存分もなくなってしまったが、ダンジョン攻略で大事なのは現状を楽しむことだ。いざとなればその辺の魔物を狩ればいいしね。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 攻略再開である。

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