インテリジェンス:アヴァロン/エクスカリバー
アヴァロンに入り、丘を越え、アンデッドやゴースト系の魔物がうろつく荒野へ。
「…………え、そうなんだ」
見渡すと、デザイアが反応した。
このアヴァロンの攻略条件――"丘の向こうにあるインテリジェンスの獲得"。
「インテリジェンスって?」
デザイアのやつ、教えてくれるのはいいんだけど、聞いたことにしか応えてくれない。説明に説明が必要なことがあってやや不便ではある。
インテリジェンスっていうのは、意志を持つ術式、とのことだ。
デザイアもインテリジェンスだっていうし、もしかしなくてもまた継承みたいなことになるんじゃないか。
『チュートリアル』といいここ『アヴァロン』といい、出入り自由&未攻略のダンジョンっていうのは全部インテリジェンスがあるのかもしれないな。ボクに無関係であることを祈ろう。義務感で冒険したくないからな。
「よし、やるぞ!」
このダンジョンの魔物の倒し方は前回の通り、騎士然とした決闘に十三回勝利すること。
威圧感のすごい、見上げるほどのフルプレートメイルを正面から殴り、参ったと言わせると成仏する……みたいな感じだ。
ボク本来の血統術式『血騰』は、心臓を基点とし血液を介した、魔力による身体強化だ。その大元が精霊銀になったものだから、出力がすごい。体感で五倍の魔力が全身を巡っている……!
怖いものなしになったボクは十二体の騎士を千切っては投げ、あと普通のアンデッド系をはっ倒して進んでいった。
「着いた……はず」
台座に突き刺さった剣。
デザイアの反応はない……けど、多分これがお目当てのインテリジェンスなのだろう。
「さっさと抜いて帰ろう」
刃とかボロボロだし、すごいとか、そんな感想はなかった。ここまでそんなに苦労してないから、感慨とかもないし。
「ん……抜けない……っ」
結構かたい。
なんか、無理やり抜こうものなら、剣の方が折れてしまいそうだ。
「……コイツも試してくるのか……?」
何か抜くための手順があるタイプの固さだ。特定の魔力波形で干渉するのか? よくわからない資質を試しているのか?
デザイアもそうだったから、そういうこともあるだろう。そのせいでボクが王位継承させられそうに……腹立ってきたな。折っちゃダメかな、コレ。
「困るな、それは」
背後から声。
後から追いてくる気配はなかったはずだけど。
「…………困ってるのはボクなんだけど」
振り返り、抗議。
「どうして? 君はエクスが欲しくてきたんでしょ?」
「エクスって?」
「……? エクスはエクスだよ」
と、自分を指差して彼女……? は微笑んだ。
白い礼服を纏っているものの、短く見えるよう結い上げた金髪と鋭くなるよう険を張った碧い目元、あと全体的な骨と肉の感じから女性、少女だと察せられる。色々あるのだろう。色々。
鎧こそ纏っていないものの、立ち姿が少女騎士を思わせる。旗持ちとかやったら士気上がるんだろうなぁ。
「君の騎士道、見せてもらった。しかも素手でみんなを倒しちゃうなんて、そんなにこの剣が欲しいんだぁ?」
蠱惑的に体を傾げる少女。
や、違うけど……。
騎士道とかわかんないし、剣がないから素手だったわけじゃないし。
「別に……。このダンジョンをクリアしてきて、って頼まれたから……」
「そ・ん・な・に、エクスのことが欲しいんだぁ?」
「うっさい」
「ぁいっ!」
あんまりにもうるさかったので、無防備なおでこにデコピン。
「な、なにを……⁉︎」
額を抑え、涙目で抗議するエクスちゃん。
「騎士系に十三回勝てばいいみたいだし。だからキミでラストにしよっかなって」
「そ、そういう設計にしたけどさぁ……!」
うずくまるエクスちゃん。したけど、っていうのが引っかかったのでデコピンをチラつかせると、背を向けてしまった。
「した、って、キミが? …………あぁ、なるほどね」
「な、なんだよ……」
じぃ、と涙の滲んだ眼を覗き込む。
虹彩の奥で踊る魔力を視て、デザイアが囁いた。
「キミがこのダンジョンの核――インテリジェンスか。デコピンしてごめんね。やろっか、正々堂々」
羽毛のように柔らかい頭を一撫で。二メートルほどの距離を取り、エクスと向き合う。
「待って。少し泣く」
「あ、そう」
嗚咽と鼻水を啜る音、時折「ちくしょう」「なんでこんなのが……」とか聞こえたけど、まぁいい。
「もう、いいよ」
めちゃくちゃ可愛い美少女、いじりがいがある小動物、という評価をやや撤回。
"十三人目"としてボクと向き合ったエクスは、並々ならぬ魔力の奔流を纏っている。
「私はエクス。君の知る通り、このダンジョンの核・インテリジェンスで、選帝の剣だ」
「…………」
「エクスが名乗ったんだから、君も名乗って。ほら」
「あ、ごめん」
そういう礼儀とかあるのか……気をつけよう。
「リセ・ヴァーミリオン。血統術式は『血騰』。
「ヴァーミリオン? シンじゃなく……あぁ、アイツの娘か……いいよ。リセがここまで来たのは事実だし」
選帝っていうくらいだし、王家御用達みたいなものなのか。ボクがシン=スカーレットじゃないことを知って尚、エクスちゃんの闘気は萎えていない。
「そっちから始めていいよ。私、負けないし」
「そう? じゃあ遠慮なく」
と、一歩踏み込んだときだった。
急に体のバランスが崩れて、ボクは転んだ。
「な――」
目で見るより早く、デザイアが報せる――ボクの右腕が、肩からバッサリ斬り落とされたのだ。
「〜〜ッ⁉︎」
悲鳴をあげる暇もなく、デザイアからの警告――それに従い、二発目の斬撃を回避。
「ぅ、腕……」
腕が。
「へぇ。まだ意識あるんだ……それが君の、デザイアの力なのかな」
「腕……が……!」
無いと困るなんてもんじゃない。
継承権とかインテリジェンスとかどうでもいいんだよ。ただボクは、ギルドを長く続けて、もしかしたらいい人と結婚とかしたりして、それだけなんだ。巻き込まれただけ。
「ま。シン=スカーレットの血筋でも無い君に私が負けるはずないよね」
死ぬ? 死ぬのボク? 急すぎない?
ただのひとりとして、普通に満足して普通に生きて普通に死にたかっただけなのに。
――それだけなのに、ボクの意識はどうして、失った腕じゃなくて
「へ。ハハッ」
「……気に食わない笑い方だね。痛くて辛いでしょ? 次は首を飛ばすから、安心してね」
振り下ろされたのは手刀。
振り抜かれた魔力は、少し聖霊銀が混じって……違うな。ごく微量の聖霊銀を打ち出しているのか。魔力はその形を安定させて飛ばすための後押しにすぎない。
「っ……、爆ぜろッ!」
繰り返すようだが、ボクの『血騰』は血液に魔力を混ぜる術式だ。いまは心臓そのものが聖霊銀なので質・量ともにこれまでとは比べものにはならない。で、傷口からダダ漏れの血……その魔力を単純に爆発させたのだ。
「な……!」
右肩の全部を燃料に、ボク飛翔。力なく台座の方に吹っ飛んで、無い右手を伸ばすように、肩口から銀の糸を伸ばす。
「うおっしゃぁああアァアッ‼︎」
そのまま剣を繭のようにして包み込み、捕食。ボクの心臓を食い潰して置き換わったんだ。剣の一本や二本、取り替わるくらい造作もないはずだ。そのはずだ!
「はぁ。……おめでと」
放物線を描き地面に叩きつけられたボク……だったが、寸でのところでエクスに抱き止められた。
「不本意だけど。リセ、君を私のマスターとして認め……たくないけど! エクスのこと、よろしくお願いします」
言葉の割にはあどけなく笑って、エクスは霞んで消えていった。
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