『アヴァロン』攻略

湖・アンデッド・早退

 箔をつけてきてください、とアサナちゃん。

 後日未開最前線フロンティアでも未だ攻略されていないダンジョンのリストが手渡されたので、一番上の『アヴァロン』にすることにした。


「え、アサナちゃんは来ないの?」

「はい。私は血筋ではないリセさんのための根回しがありますので。なにより、仮にも王家の私が同伴しては正しい評価を得られないと思います」

 なるほど。


 というわけで、エントランスフロア。扉だらけの空間。そこから目当ての扉を選んで、レッツ冒険!


 ざあっと、心地よい風が吹いてボクを出迎える。

 『アヴァロン』は、湖とお花畑のダンジョンだ。脱出条件は特になく、出ようと思えば出られる。

 魔物らしい魔物も、普通にしている分には遭遇しない。

 気温も景色も素晴らしく、ちょっとした休息や観光、デートスポットとして有名である。


「やぁ、リセじゃないか! ギルド立て直しおめでとう!」

「マクスウェルじゃん。一人で何してんの」

 湖畔に佇む黒髪の青年、マクスウェル。

 若く猪突猛進なところがあるものの、れっきとした『紫の波間』のギルドマスターである。


「なにって、この湖には美女が現れると噂になっていていてね。ここ数日はその話題で持ちきり……お声をかけようとする冒険者は、ウチのギルドで順番を整理してチャンスを平等にしているわけさ」

「へぇ。で、マクスウェルの番なんだ」

「そうとも。わかったなら向こうに行っててくれ」

「その美女ってボクのことじゃない?」

「いや、ない。いいからさっさと行けよ。友達に女性を口説いているところを見られるのはいい気分ではない」

「はいはい……ご健闘をお祈りシマース」

 言われなくても湖からは離れる予定だ。


 少し歩くと丘がある。

 稜線から先は荒れ野になっていて、アンデッド系の魔物がまばらに見受けられる。骨や腐肉、あと怨念タイプのやつ。それから……騎士風の甲冑を纏ったのが少し。


「うぇ……」

 はっきり言って苦手なタイプだ。

 ヴァーミリオン家の血統術式は『血騰魔術』。心臓を基点に、血液を介してどうこうできるものだ。

 加えてボクの魔術特性は水と空……液体を操るものと、魔力そのものを操るもの。

 それらを組み合わせたボクの必殺パンチは、魔力の乗った血液で全身を強化した上で、特殊な振動を拳から相手に流して破壊するものだ。骨や肉はともかく、ガスのような本体を持つあの魔物たちに通用するかと言われると……優しく見積もっても微妙なとこだろう。


「苦手と向き合ういい機会か……」

 そんなわけで、丘を駆け降りていく。

 今まで戦うのを避けていたけど、案外なんとかなるかも、だしね。


「必殺パーンチ!」

 そんなわけで、苦手なヤツを殴ってみた。


 プレートメイルはひしゃげたが、瞳らしき光点はまだ灯っている。

 大剣の振りかぶり……籠手を蹴り上げて軌道を逸らす! 少しのけぞったところにすかさず足払いをかまし、転ばせる。

「必殺……あれ?」

 馬乗りになって拳を振り上げると、甲冑の中から黒いガスが漏れ出ていった。

「気配が消えた……?」

 倒したってこと?


 ――。


「っ、なに……?」

 耳鳴りのような、心臓を締め付けるような。それと同時に、『ここのアンデッド系は、騎士の決闘に沿った方式で負かすと成仏し、倒せる』という情報が頭に流れ込んでくる。


「はっ、はっ、はっ、はっ……」

 うわ、汗やば。頭痛い。胸がつらい。


 ……一旦帰って休もう。

 

◆◆◆


 帰宅。

 なんか妙に疲れたので、作り置きのハニーレモンを貪る。


「なんなんだろうな、これ」

 有耶無耶のうちに王位とやらを継承してしまった、あの日からある胸の違和感。


 それが一層強くなっている気がする。

「っ……」

 また耳鳴り……。


「先生に聞いた方が早いかなぁ」

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