継承者リセ

 自宅兼ギルド受付にはいま、掃除こそちゃんとしている(つもりだよ)もののやはりそれなりの空間に相応しくない、カタい服装の貴人が二人。


「なんで着いてきたの? です」

 キリキリする胸を押さえて帰宅したボクだったが、王族が二人着いてきたのだ。


「私は報酬のお支払いに」

 小さめと大きめの皮袋をテーブルに置くアサナちゃん。やったぜ。これで連盟に残れるぞ。


「俺は次代の王に媚を売りにきた」

「無敵かよ」

 魔術で服を縫製し直したエルドラドさまは、がっつり胸元チラ見せスタイルに戻っている。……ちょっとありがたいものを見せてもらっている気分だ。


「はっきり言うけど、ボクはシン王国の王位とか興味ないし、ギルドマスター以上のことを期待されても困るよ」

「ならば依頼だ! シン王国次代国王として、俺と俺の一派を重用してくれ!」

「ならないって! ああもう、とりあえず帰って! 悪いようにはしないから、ね」

「わかった」

 謎にたなびくキッシュを翼に、エルドラドさまは飛び立っていった。なんかの妖精さんだったのかな……。そうだったことにならないかな……。


「寝室はどこですか?」

「アサナちゃん?」

 ヘンなお兄さんがいなくなり、立ち上がりうろうろし始めるアサナちゃん。

「戦いは始まったばかりです。寝られるうちに寝ましょう」

 マジの表情だ。


「リセさん。あなたが王位継承者として頑とした態度を取らないと知られれば、方々がリセさんを傀儡かいらいとして抱き込みにくるでしょう」

「それは……うーん…………困るね」

 ギルド運営とかできなさそうだし。


「呑気な顔ですね。いいですか? 私がリセさんの人格を認めていなければ、いまこの場で手足と目と鼻と口を削ぎ落とし、生かさず殺さず頷くだけの木偶人形にしているところです」

「…………」

「それじゃ困るんです。事情を話さなかった私にも親身になってくれたリセさんは、きっと素敵な人です。継承のシンボルがあなたを選んだのも、そういうことなんだと思います。でも、あなたの人となりを知らないほかの貴族からしたら――」

「わ、わかったわかった! うん。ご飯食べて寝ようか。ね! なにか食べられないものある?」


◆◆◆


 翌朝。


 ボクは一番に酒場に併設された連盟本部のゲンナイに加盟契約金を叩きつけた。


「チッ」

「おいハゲ、なんだその舌打ちは」

「聞こえたか」

「聞こえるだろそりゃ。で? これでちゃんと仕事回してくれんだろーな?」

 体をねじり、斜め下からゲンナイを睨め上げる。


「いいえ、ダメです」

 バン! と扉を強く開いて、アサナちゃん登場。寝てるうちを見計らって出てきたつもりだったんだけど。


「リセ・ヴァーミリオンおよび『赤の夕暮』。あなたには、このシン王国王家シン=スカーレットの第四子、アサナ=シン=スカーレット改めアサナ=マゼンタスカイ専属のギルドとなってもらいます!」

「し……シン王家の! これはこれはようこそおいでくださいました! わたくし、未踏最前線フロンティアのギルド連盟の長、ゲンナイでございます」

 ぺこぺこし始めるゲンナイ。こういう細工のおもちゃあったな……。


「あら、ごきげんよう。私のリセさんがお世話になっているそうですね」

 ボクはボクのだよ。面倒なことになりそうだから口は挟まないけど。

「聞けば、いたく冷遇していただいたとか」

「あ、えっとー……それはですね……」

「まぁ。おかげさまで、先日の私のような得体の知れない依頼人を受け入れていただいたわけですから……そういう運命だったのかもしれませんが」

 流し目でこっちを見るんじゃない。なんの運命だよ。


「リセが厨房に立つと、みんな喜ぶんです。それで……」

「……はぁ。だ、そうですよ」

「……しょうもないなぁ……」

 そんな理由で干されてたの、ボク。なんでかなぁって悩んで、真っ先に思いついて真っ先にないなってしたヤツだ。アホすぎるからね。


「はぁ……。月イチなら立ってあげるよ、厨房」

 自宅じゃ使えない調理器具とか使えるし、自分じゃ多分食べない食材もいじれるし。


「いいよね、アサナちゃん」

「はい。私も昨晩いただきましたが……なるほど、あれには飼い殺しの価値がありますからね」

 え。

 やや嬉しくはあるけど……。

「そんなわけです、ゲンナイさん。リセさんはもらっていきますね」

「ああ。今後とも『赤の夕暮』および未踏最前線フロンティアギルド連盟をご贔屓に……へへ」

 調子がいいハゲだなぁ!

 ま、いいか。

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