lastday.「いつか、必ず」「信じて、待ってる」(※少し不快な描写あり)

 その日は、年に一回ある、親睦会という名の親戚一同の二泊三日の旅行だった。


 旅先の開放感ある、魅力的な宿での


 これがしたかった男共は、さきを連れて行こうとした。だが、咲は髪を引っ張られ、引きられそうになっても、腕や足を噛み抵抗した。

 腹が立った男共は諦めたが、その分、咲を殴った。







 大人たちがいなくなった夜の縁側。


 咲はちょこんと座り庭の方に足を投げ出し、麦茶と氷が入ったコップで殴られた頬を冷やしていた。


「相変わらずくずだな。いや、屑にも失礼だ。糞だ、糞以下だ。人間じゃねぇ」


「まさちかおにいちゃん……」


 サークルの打ち合わせで遅れてやって来た正愛まさちかは、咲の隣に座り。


「大丈夫か? 痛かったろ?」


 咲の赤く腫れた頬にそっと手を伸ばした。


「うん、でも大丈夫。毎日の痛さにくらべれば」


「あーあ、あいつらが泊まった旅館、崩れちまえばいいのに。な?」


「でも、そうしたら。りょかんの人とか、関係ない人まで死んじゃうよ……」


「咲は優しいなー。俺は優しくねぇからな、周りなんか知ったこっちゃねぇ。お前が痛い思いを、苦しい思いをしなきゃ、それでいい」


「……まさちかおにいちゃんは、じゅうぶん優しいよ。誰よりも」


「じゃあ、優しい正愛まさちか従兄にいちゃんにちゅーしてくれー」


「……すぐそうやって調子にのる」


「はいっ、すいませーん!」


 正愛まさちかは床に大の字になって寝そべった。


「まぁ、ぶっちゃけ。本当にどうでもいいんだ。あの屑連中がどうなろうが、サークル仲間にロリコンだと思われようが、どうでも。お前が幸せなら」


「ロリコン……。おさない子や女の子を好きな人……」


「お? 早速この間の図書館の知識だな? すごいすごい」


 正愛まさちかは手を伸ばし、咲の頭を撫でた。


「おにいちゃんすぐ子供扱いする……。はやく大人になりたい……」


 咲は口を尖らせ落ち込んだ。


「ははっ、そうやってすぐ口をむいっとさせる内はまだまだ子供だ。でも、充分」


 正愛まさちかは起き上がると、いつものように咲を抱き上げ自分の足の間に座らせ、顔を覗き込んだ。


「今でも可愛いけどな」


「——……」


「そうやってすぐ苺みたいに真っ赤になるとこもな。あ、だから苺味が好きなのか」


「それは関係ない……」


「ははっ。まぁ、でも。いつか必ず、ここから連れ出してやるからな」


「……うん」


「俺を信じて、待っていてくれ」


「……うん。信じてる、待ってる」


「中、高、大と全国大会連覇してんだ。絶対どっかのチームに目が止まるはずだ。そうしたら、こんな腐った町、そして、この屑の家から出て、俺と暮らそう」


「うん」


 咲は両手でコップを持ち、一口こくんと飲んだ。


「俺にもちょーだい」


「はい」


 咲は見上げながら、両手でコップを持ち上げ。


「どーも」


 正愛まさちかは咲に持たせたまま、麦茶を飲んだ。


「ふっふっふー」


 そして、ニヤニヤと笑った。


「何?」


「これで、間接ちゅーだな」


「——」


 咲は一瞬で真っ赤になった。


「また苺咲ちゃんになっちまったなー」


「——おにいちゃん、やっぱり子供っぽい」


「いいじゃんか、腐った大人ん中、子供っぽい俺がいても」


「——うん。子供っぽくても、どんなおにいちゃんでもかっこいい」


 咲は、耳や首まで真っ赤になりながら、俯くと小さく言った。


「んー? んー、小さくて聞こえなかったなー。もう一回、大きな声でー」


「——ぜったい聞こえてた。だからもう言わない」


 咲は口を尖らせ、外方そっぽを向いた。


「ははっ、からかいすぎたか。でも、まぁ、そうやってお前が、どんな俺でもかっこいいって言ってくれっから、頑張れるんだけどな」


「やっぱり聞こえてたんじゃん……」


「はっはっはー、バレたかー。……でも、俺もどんなお前でも可愛いよ。だからって、泣かせてまで襲う奴らの気だけは、これっぽっちもわからんし、わかりたくもねぇけどな」


「うん……」


 咲はうとうとし始め、時々頭がかくんと下がった。そして、頭を上げると、目を瞑り眠気を吹き飛ばすように首を横に振った。


「このまま寝ていいぞ。今日は俺、ここにずっといるから」


 正愛まさちかは咲からコップを取り床に置くと、自分の胸に寄りかからせた。


「まだ、だいじょう、ぶ……」


「いいから寝ろって。最近ちゃんと寝れてねぇだろ。夜にいつ奴らが来るかわからねぇから。だから、な?」


 「な?」と、正愛まさちかに優しく言われ、頭を撫でられると、咲は正愛まさちかの言葉がスイッチだったかのように、ゆっくり目蓋まぶたが閉じていき、寝息を立て始めた。


「——……」


 正愛まさちかはそんな咲を抱き締め、慈しむように見ると、決意に満ちた瞳で夜空を見上げた。


「待ってろ、咲」





 番外編 完



 ⌘ ⌘ ⌘


 あとがき。


 ほのイチャ編、終わりです。


 この後、正愛まさちかは本当にスカウトされ、都会のマンションで暮らせる事が決まりました。

 そして、あの惨劇です(苦笑)


 次は、並行世界編です。


 色んな世界線を書きたいなと、思っております。


 ではでは、ほのイチャ編にお付き合いくださり、ありがとうございましたー。

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