第22花 惨劇前夜
その日は年に何回かある、咲の家系の親族会議だった。
近くの料亭を貸切、行われていた。
この年に何回かある会合が、唯一咲が解放される日だった。
咲の傍にいるために。
こうして、夜。
二人は性の
「あーあ、このまま時間が止まればいいのに。な?」
「……うん」
咲も月を見上げたまま言った。
「そうだ! 俺な、企業チームに入れる事になったぞ!」
「きぎょうチーム?」
「そ、新体操の。この間スカウトされてさ、なんかでかい企業でスポンサーもついてるらしい」
「すぽんさー?」
まだ四、五歳だった咲は、知らない言葉をオウム返ししていた。
「ははっ、咲には難しい言葉ばっかだったな。悪い悪いっ」
「——おにいちゃん、そうやってすぐ子供あつかいする」
「俺から見ればまだまだ子供だ。けど、喜べ!」
「何を?」
「ここから出られるんだ!」
咲は目を見開いた。
「スポンサーがな、マンションを経営していてな、そこに住まわせてくれるらしい。部屋が決まったら、お前を連れて行くからな」
「……ここにいなくていいの?」
「ああ」
「……あのおじちゃんたちとお別れできるの?」
「そうだ!」
「——……」
咲は静かに、大きな粒の涙を流した。
「スポンサーとの打ち合わせや、マンションの契約で家を離れることが増える。また辛い思いをさせるけど、我慢してくれな」
「大丈夫。さよならできるなら耐えられる」
「そうだ、さよならできる。警察にも児童相談所にも話はしといた。ここから出たら、お前との接近は禁じられるはずだ」
「……そしたら、もう気持ち悪いことされなくていい?」
「ああ」
「おにいちゃんとずっと一緒?」
「そうだ、俺と二人で、ずっと」
「——うれしい」
「俺もだ。今から考えとけよ。俺と何したいとか、どこ行きたいとか」
「うんっ」
月は、満月は、全てを見ていた。
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