第3章 この世界は

第21花 愛している(※不快な描写あり)

 二人は、歳の離れた従兄妹いとこだった。


 咲の母親の姉は、早くに正愛まさちかを産んだ。十八歳で。


 咲の母親は、三十一歳で咲を産んだ。


 十五も離れた従兄妹だった。



 そして、咲の両親はやまいで亡くなった。咲がまだ三、四歳の時だった。


 こうして咲は親戚中をたらい回しにされ、最後の場所が、性欲を持て余していた卑猥な男共が生息している、あの家だった。



 正愛まさちかはあの家の近くに住んでいた。


 最初は咲を、親戚をたらい回しにされている、“可哀想な従兄妹”としか、見ていなかった。


 だが、性のけだものの男共に襲われ、衣服を破かれ体を押さえつけられ泣き叫ぶ咲を見かけ。



 正愛まさちかの中で、何かが弾けた。



 男共を咲から剥ぎ取ると、力を込め殴り飛ばした。

 そして、自分のTシャツを咲に被せかかえ、自宅に戻ると、彼女を力一杯抱き締めた。



「——悪かった、遅くなって」



 正愛まさちかにそう言われ、咲は声が枯れるまで泣きじゃくった。

 正愛まさちかは何も言わず、ただ咲を強く抱き締めていた。



 こうして、正愛まさちかは家を空ける用がない限り、咲の傍にいた。

 「勉強を教える先約がある」など、適当な言い訳をして。


 正愛まさちかは大柄で筋骨隆々だった。

 そして、体の柔らかさもあり、中学の時から新体操を始めていた。

 そのおかげもあり、けだものの男の一人二人なら、負け知らずだった。


 あの時の、殴られた痛みを覚えている男共は、正愛まさちかがいる時は、咲に近づけないでいた。


 二人でいる時間は増え。

 咲の中で、“優しくしてくれる大人の男の人”は、“大好きなお従兄にいちゃん”に変わり。

 正愛まさちかの中で、“可哀想な従兄妹”は、“愛しい女の子”に変わり。



 二人が愛し合うのは、必然だった。



 だが、二人は想いを伝えることはなかった。



 ただ、傍にいて、寄り添い、手を重ねる。


 それだけで、伝わっている気がした。



 “愛している”、と。

 

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