第20花 正愛

 歩くくろ浜茄子ハマナスつるに、貫かれそうになりながらさきは振り返った。


 そこには、確かにシトだが、人らしからぬ白さではなく、人間らしい肌色を取り戻し、濁って揺らいでいるような、怪しい黒い瞳ではなく、しっかりと瞳孔がわかる瞳の。


 従兄妹いとこの、男がいた。


「うおおおぉぉぉ!」


 シトで従兄妹の男は、雄叫びを上げながら、咲の足に絡みついていた根を引き千切り、咲を脇に抱えると。


「おらぁ!」


 迫り来る波を、蔓を掴み、人間技とは思えない怪力で引き千切り、投げ飛ばした。


 そして、血だらけの手で咲をそっと下ろした。


「……お従兄ちゃん? 本当に正愛まさちかお従兄ちゃんなの?」


 咲は、シトであり正愛まさちかでもある男の服を掴んだ。


 正愛まさちかはしゃがみ、咲に視線を合わせると。


「ああ、そうだ」


 目を細め、優しく穏やかな声で言った。


「——お従兄ちゃん!」


 咲は正愛まさちかにしがみつくと、泣きじゃくった。そこには、今まで黒浜茄子に立ち向かった強い少女ではなく、どこにでもいる、か弱い少女がいた。


「咲……、思い出せてよかった!」


 正愛まさちかは咲を力強く抱き締めた。


 強く、互いの存在を確かめ合った。










  


 ここで、二つの疑問が生じる。


 咲は何故、正愛まさちかのことを忘れていたのか。

 正愛まさちかは何故、自分が正愛まさちかであると、思い出せなかったのか。



 それは、確かに、正愛まさちかというは、からである。



 時は、正愛まさちかがまだ生きていて、二人が愛し合っていた頃に遡る。

 


— — — —



 あとがき。 


 次回、新章にて最終章になるといいな、な章です(なるといいなって何だ)


 それにしても、シトが正愛まさちかである事を思い出しちゃったよー、「ぽ」以外も喋るよー、台詞が面倒くさいよー(心の声だだ漏れ)

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