第16花 二人の世界に(※残酷な描写あり)

 二人は元いた町に戻ってきた。


「……よし!」


 さきはシトに肩車をされたまま、両頬をパシンと叩いた。


「ぽ?」


 頬を叩いた音に驚いたシトは、不安げに咲を見上げた。


「うん、ちょっとね。希望なんかないかも、と、ネガティブなこと思っちゃったんだ。だから、自分を叱ったの」


「ぽぽ……」


「大丈夫、希望はんだよ」


「ぽぽ? ぽぽぽ?」


「そう、ないけどあるの。希望は私たちで作るの。私たちはこの町で生きるしかないから。この町での生き方の中で」


「ぽぽ」


「だから、やっぱり、あれを消すしかないんだよ」


 咲は町の中央で艶かしくうごめく、くろ浜茄子ハマナスを指した。


「ぽ」


「でも、除草剤作戦は


「ぽ?」


「この前は運良く除草剤を手に入れたけど、次もそうとは限らない。次も除草剤があるとは限らない」


「ぽぽ」


「ホームセンター跡などを探して見つけて、そこに除草剤がなかったら、ただの無駄足。体力を消耗するだけ、そこにつるにでも襲われたら、今度こそ、死ぬかもしれない」


「ぽぽ……」


 なるほどと言うように、シトは頷いた。


「だから、無意味な希望だとわかっているけど。誰か、他に、まだ生きている人がいてくれたらな。私たちだけじゃ、限りがあるから」


「ぽ」


 シトが髪で蔓を切断しながら進んでいると。


深夜ふかやさん! 深夜さんだよね!」


 咲と同じ制服を着た少女が、建物の壊れかけの柱から出てきた。


「……誰?」


「ほら! 少しだったけど同じクラスだった白塚しらつかだよっ」


「……そう」


 咲は身構えた。

 少ししか通わなかった高校の同級生に、見覚えがなかったから、だけではない。

 明らかに、見ただけで人間じゃないとわかるシトを見ても、少女に、違和感を感じたからだ。


「その人、彼氏? かっこいいねっ」


「ぽ?」


「彼氏じゃないけど、大切な人」


「そっかー、いいなー。深夜さんは一人じゃなくて。それにいつ見てもきれいだよねー、羨ましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああねえちょうだい」


 同級生だった少女の目や口から、蔓が伸びてきた。先端には涎のような水滴を垂らしている黒浜茄子が咲いている。


「シト!」


「ぽ!」


 咲がシトの肩を台にして跳ぶのと同時に、シトは髪を伸ばし蔓を切断した。


「いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいねえなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?」


 かつて、同級生だった少女は、目鼻口から血を流しながら絶叫した。


「わかったからだよ! この世界にシト以外いらない! 必要ないって! 私は! シトと生きていくんだって!」


「ぽ!」


 自分の肩にまた着地した咲を、シトはしっかり両足首を掴み支えた。

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