第15花 ノアの揺籠

「そういえばさ、私たち似ているよね」


「ぽ?」


「見た目が」


 さきは学校の制服を着ていた。珍しい上下白のブレザーとスカートだ。

 だが、高校に馴染めず、友人はできず、登校拒否になった。それが、拍車をかけ親戚の男共の餌食となった原因の一つでもある。


 そして、その制服に相反するように、美しい黒髪をしている。


 シトも、上下白のスーツとパンツ、黒のネクタイに黒髪、そして、白のハット。


「ぽ? ぽぽぽっ」


 シトは咲の服装と自分を見比べ、嬉しそうに目を細めた。


「でも、シトの髪は不思議だよね。短いのに、戦う時は伸びるんだから」


 シトも咲と同じ黒髪だが、刈り上げのツーブロックでアップバンクスタイルだ。


「ぽ? ぽぽ?」


 シトは不思議そうに自分の前髪を摘んだ。


「いや、似合ってるよ。かっこいい」


「ぽぽっ」


 かっこいいと言われ、シトは頬を染め咲を抱き上げ、また肩車をした。


「肩車、気に入ったんだ?」


「ぽ」


「私も町がよく見えるから好きだよ。よし、このまま隣町に行ってみよう。平穏があるかもしれない」


「ぽぽ」


 シトは頷くと、ゆっくり走り出した。



 ⁂⁂⁂⁂



 隣町は、咲たちのいた町から数キロ離れていたが、シトの長い足で走ればあっという間に着いた。

 そこには。


「おかあさんまってー」


「次、あそこのパンケーキ食べに行こー」


「あの先公マジでムカつくー」


 の日常があった。


「よかった……。やっぱり私たちの町だけみたいだね」


「ぽぽ」


「シトを受け入れてもらえるか、わからないけど。害はないって説明したらきっとわかってくれるよ」


「ぽ」


「じゃあ、行こうか」


「ぽ」


 シトは一歩を踏み出し。


「ぽ?」


 立ち止まり上空を見た。


「何? どうしたの?」


 咲も見上げると、隣町の中央に取ってのある茶色の籠が天から降りてきた。


「ノアの方舟かな?」


「ぽ?」


「遥か昔ね、神様が悪い人間が増えた事に悲しみ、人類を滅亡させようと大洪水を起こしたの」


「ぽぽ……」


「そうだね、神様怖いね。でね、人類の中で唯一、清く正しい心を持ったノアだけが、神様に生き残りを許され、方舟を作り洪水を乗り切ったんだって。だから、もしかしたら、この町にもいずれ、あの化け物花みたいな絶望がやってくる前に神様が助けを……」


 二人が見上げていた籠は、ゆらゆら揺れながら逆さまになり、白いものを降らした。

 それは、おぞましいものだった。


「シト、もしかして、あれって……」


「ぽ」


 二人が見ている中、降らされたものは人々に触れると。


「がっ、が、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 人々の腕や腹、目や鼻からつるが生え、きれいな、恐ろしいほど美しい、黒浜茄子が咲き。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 歩く化け物花と化し、人々を喰い散らかした。建物も歩く巨大花と化した。

 阿鼻叫喚あびきょうかんの絶望絵図が、出来上がってしまった。


「……帰ろうシト。私たちの町へ。神様なんて、いないんだよ」


「ぽ……」

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