第14花 いてくれてありがとう

 の太陽が、うめき声を上げながら、鉄板で焼かれたような音を出し、消えていく。


 さきはそれを見て安堵しながら、くろ浜茄子ハマナスの中に落ちていく、寸前で。


「ぽ」


 シトが伸ばした髪を一箇所に集め、円形にし受け止めた。そして、黒浜茄子のつるが伸びてくるより早く、自分の方に咲を引っ張った。


「ありがと」


「ぽぽぽ!?」


 シトは咲のただれた右腕を見て撫でようとし、手を引っ込めた。


「ああ、大丈夫だよ。痛みはないんだ。白くなったしね」


「ぽぽ……」


 咲の火傷は、Ⅲ度熱傷だった。

 Ⅲ度の火傷は、表皮、真皮のみならず脂肪・筋肉といった皮下組織にまで火傷が及んでいる状態。神経や血管も火傷でやられているため、外見上白色に見えたり、時に黒く見えたりする。そして、痛みの感覚はない。手術など専門的な治療が必要になるほど重度だ。


「でも、ごめんね」


「ぽぽ?」


「これで、右腕は使い物にならない。私、足手纏あしでまといだね」


 咲はあざけった。


「ぽぽ! ぽぽぽ!」


 シトはそんなことないと言うように、大きく首を横に振った。


「ありがとう。……でも、やっぱりダメだったなー」


「ぽ?」


「慣れたと思ったんだけど、やっぱり、怖いや。あの手を見ただけで体が動かなかった」


 咲は左手で右肩をさすった。


「ぽ、ぽぽ」


「そっか、シトは見ていたもんね。塀の向こうから」


「ぽぽ、ぽぽ……」


「助けられなくてごめんって、言ってるの?」


「ぽ……」


 シトは小さく申し訳なさそうに頷いた。


「謝らなくていいって、助けを求めなかった私が悪いんだし。それにね」


「ぽ?」


「シトと目が合っただけで、なんか、救われていたよ? あの惨状を、一人でも誰か知っていてくれていると思うだけで。見てくれていただけで」


「ぽぽ」


「うん。だから、ありがとう。シトがいてくれてよかった」


「ぽぽぽっ」


 シトは嬉しそうに頬を染めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る