第4花 粒子の恐怖

 さきは持てる全力で走った。後ろからしゅるしゅるとつるが追ってくる音がする。


 だが。


「ぽ」


 という男の声と共に、蔓が迫る音は消えていく。


 咲は身を隠せる場所を探した。けれど。辺りを見渡すと、破壊された建物ばかり。


「…………」


 咲は仕方なく、親戚の家へ戻る事にした。





 親戚の一軒家は、黒浜茄子から離れていて無事だった。中に住まう人も。


「咲! 何してっ、ひっ!」


 様子を見てこいと命令した老人は、咲の後ろにいた男を見てたじろいだ。


 親戚たちがたじろくのと同時に。


「粉?」


 黄色の粉末のようなものが家に降らされた。


「何だろう」


 咲が降ってくるものに手を伸ばそうとし。


「ぽ」


 後ろに立つ男のきれいで大きな手に包まれ、止められた。


「……触れちゃいけないの?」


「ぽ」


 男は大きく頷き。


「ぽ」


 咲に自分のハットを被せた。


「うわっ、おっきいね」


 男のハットは咲には大きすぎた。だが、そのおかげで彼女は粉から守られた。


 直に降らされた家は、大きな黒浜茄子となり。

 粉は、黒浜茄子の花粉だった。


「ひっ! ごぼっ!」


 逃げ惑う親戚たちを蔓で貫き、捕食していった。


 捕食されなかった人は。


「なななななななな!」


 目や鼻、口から黒浜茄子が生え。


「なんっげふぉ!」


 やがて、それに喰われ、黒浜茄子となった。


「……ここもダメだ」


 咲はまた走り出そうとし。


「えっ? うわっ!」


 男に肩車をされた。そして、男は走り出した。





 八尺の上から見る世界は、絶望そのものだった。

 周りは黒浜茄子だらけ。生きているものは捕食されるか、花びらか花粉により、黒浜茄子にされていく光景。


「…………」


 だが、今まであった事を思えば、咲は不思議と怖くなかった。


 ただ、不思議なのは。


「ぽ、ぽ」


 「ぽ」しか言わず、何故か嬉しそうに走っている、八尺の男は、どうして自分を助けてくれたかのか、という事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る