残雪の地図 🗾🌏

上月くるを

残雪の地図 🗾🌏





 寒の内にしてはあたたかい朝、東側の窓のカーテンを開けて目を見張りました。

 中庭の日陰に残っている雪のかたちが、あまりに彼の国にそっくりだったので。


 年老いたひふみさんの記憶の糸が、面白いほど、するする、ほぐれていきます。

 既視感というのとはちがうと思います、見たのは曾祖母のいろはさんですから。




      👘




 そのころ島国日本は大国ロシアと戦争をしておりました。はい、日露戦争です。

 娘時代のいろはさんは、ある冬の朝、庭の残雪に日本列島の形を見たそうです。


 あまりにしっかりとした地形なので「日本が勝利する証し」と確信したそうで。

 だれにも信じてもらえなかったのですが、その年の九月、日本は勝利しました。




      🎠




 婚約者だった曾祖父が戦地から帰って来たから、いまのおまえたちがあるんだよ。

 そう言い聞かされて育ったので、ひふみさんは自分の目に映るものを疑いません。


 いま隣国ロシアに侵攻されているウクライナは、近い内にきっと安寧を獲得する。

 認知症を疑われそうなので家族にも話さないつもりですが、あれは天の啓示。🌞




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残雪の地図 🗾🌏 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ