12ページ目 ■ 報復權 ■
「さぁ、皆さんお待たせしました! 今宵もビシバシ処してもらいましょーう!」
軽快な司会者のナレーションが廃墟の会場に響く。
「1時間以内に逃げまどう死刑囚を殺すことができればァ、ご遺族の勝利ッ。しかーしッ、制限時間を超えてしまったら死刑囚はァ、無罪となりますッ。文字通りィ、命を懸けたこのゲームぅ、勝利は一体どちらの手にィイ?!」
拳銃を握るわたしの手に力がこもる。ヤツは、ヤツだけは絶対に許さない。
ドックン、ドックン。
月明りに照らされる廊下。スマホのマップに映し出されるアイツの位置情報を頼りにコンクリートがむき出しの床を駆ける。
ダッダッダッと、アイツが走る音が建物内に反響して聞こえてくる。何年も檻の中にいた囚人だ。まともな運動すらできないでいたんだろう。体力は断然わたしに分がある。
ガラガラっと扉を開け閉めする音が聞こえた。隠れたつもりか。体内に埋め込まれた発信機がしっかりとヤツの現在地を示している。
ドアを乱暴に開け放って叫ぶ。
「コソコソ逃げ回ってないで出てきなさいよ、臆病者ッ!」
ガァアアンッ。
銃声が部屋に轟く。雑多に並べられている事務机の下から、男が慌てて姿を現して部屋から飛び出そうとする。
もう一発、ガンッ。
カラスの鳴き声を何倍にも気持ち悪くしたような、ギィヤァという短い悲鳴が聞こえ、ヤツの腕から血しぶきが散る。
手と耳が痛い。初めて撃つ拳銃の爆音は、わたしの想像以上に頭の奥に響いていた。
負傷しながらも逃げ続ける囚人。マップに大体の位置情報は表示されてはいるが、どの部屋にいるかが分かる程度で、詳細な場所は自分の目で探すしかない。
床に点々と滴っている血痕を辿って、アイツを徐々に追い詰める。
廃品置き場と入り口に書かれた部屋。
ヤツの最期にふさわしい場所だ。残り時間も少ない。ここで確実にトドメをさす。
ドック、ドック、ドック。
カシャリッ。拳銃の弾倉を交換し、左手でガチャっとドアを押し開けて中にゆっくり踏み入る。
……窓は無いようだ。
部屋はかなり暗く、
スマホのライトをかざして周囲を照らす。
そんなに広い部屋ではない。
隠れられる場所も限られている。
ほら、そこに赤い点々が──。
と拳銃を構えた瞬間、わたしの後頭部に強烈な衝撃と激痛が走る。
「くっそがァア、俺はァアッ、こんな場所で死にたくねェんだよォオオォオオオ!」
周りに散らばるガラス片。わたしはフラフラになりながらもなんとか倒れないように踏ん張った。
ドアの後ろ、
ヤツの手、
割れた瓶。
視界がぼやけている。
ガンッ、ガンッ、ガンッ。
がむしゃらに撃ち続けるが、急所に当たらない。血まみれになりながらヤツもわたしの体にガラスの刃を繰り返し突き刺す。
痛みはとうに限界を超えている。
「アンタさえッ、この世に、いなければぁああッ」
ガァンッ。
1発の9mm弾がヤツの頭を貫き、地面に崩れる。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
終わった。
これですべて終わった。
わたしのお母さんを手にかけた、空き巣でたったの数万円ぽっちの現金を手に入れるためだけに殺人を犯したヤツの命を、この世から消し去ったんだ。
わたしの人生のすべてを狂わせたゴミクズを。
厳重に装備したスタッフの何人かが部屋に突入してくる。わたしに向かって何かを言っているようであるが、聞こえない。そして、わたしを拘束する。
…………え、なんで?
「制限時間を過ぎていた。彼はもう無罪となっていた。君は無罪の人間を殺したのだ」
───銃声のせいで聴力が弱っていたわたしが、後から聞いた事実だ。
時間終了のサイレンが鳴っていたはずであるが、わたしには聞こえていなかったのである。
そして今、わたしは走っている。生きるために。無罪を勝ち取るために。
3分間 善方響輝 @Zempou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。3分間の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます