11ページ目  ■ 四肢視 ■

「君は、小指だね」


 小学生のとき、僕のクラスには変なヤツがいた。

 クラスメイトにニックネームをつけるみたいに、体の一部に例えて言うんだ。

 当時、ソイツの周りにはいつも何人かの男子と女子がいて、そのニックネームの話題で盛り上がっていたのを覚えている───。


「指長くてキレイだもんねー。体も細くてカワイイよねーッ」


 小指を褒められた女子は頬を少し染めて、照れくさそうに笑っている。

 俺は俺はー、と男子が興味津々で自分のことを聞く。


「えーっと、君は耳だよ」

「うわー、オレは耳かーッ。もちょっとさ、他のにしてー?」


 ダセー、ハハハッ、とかみんなで笑っている。

 次にソイツは僕の親友を指さして、また体に例えて言う。


「そう、君は、髪だね」


 ぶっは、お前の方がダセーじゃん、などと言って笑われている親友。自分のコンプレックスである癖っ毛を隠すように両手で髪と顔を覆っている。


「……ね、ねぇ、ちょっといい?」


 横で聞いていた僕も、つい気になって聞いてしまった。


「僕は?」

「うーん……、君は何だろう……」


 聞いた後で少し後悔した。

 変なあだ名をつけられてしまったら、それこそソレでイジられてしまうんじゃないかと。

 ソイツが数秒考えた後、口を開いた。


「…………ぁ、目かな」


 なんというか、フツーだな、と思った。

 僕は眼鏡をかけていて、目がいいわけでもないし、別に目がカッコいいなどと褒められたこともない。

 目、なんて、なかなかに反応に困るネーミングセンスだ。



 ───それから十年以上が経ってそんな昔のことも忘れていた頃に、たまたまその時の親友と電話で話す機会があった。

 まだ二十代だというのに、頭がすっかりハゲてしまったという親友。最近、少人数でプチ同窓会みたいな飲み会を開いたという話を聞いた。僕の方にもEメールで誘いの連絡は来ていたみたいなんだけども、参加はできなかった。


 で、小学の時のクラスメイトの話題になったんだ。

 その話によると、女子の一人は事故で小指を失い、男子の一人は病気で両耳が聞こえなくなったそうだ。

 そう、これは聞いた話なんだ。実際に見たわけじゃない。

 僕はもうみんなを見ることはできないから。これからもずっと。


 アイツが僕たちに言っていたのは、ニックネームなんかじゃなかった。そういうことだったんだ…………。

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