story2 -何処となく邂逅-

 そして、入学式。式典には講堂の両サイドに教師陣が、前列一年生、後列二年生、二階席三年生が整列して一同は厳かな雰囲気ではあるが、ジュールはそんな中、時間を持て余しているので、何か自作歌詞の一節でも書きたくなった。

 入学式はその厳かながら華やかな印象もあった。

 講堂は質素である、重厚なクラシックコンサートホールのように造りはしっかりとしていていた。

 照明は前列から後列にかけてグラデーションを取るようにカーキ色からグレイ色にそうさせていた。

 その照明の当たり具合がショッピングモール街のマネキンの立ち並びを列挙していくようになっていて、一階席前列にいるジュールはそのような自身の気質に対して背徳を味わっていた。

(雑然さがあなたとは似合う)

 彼はこの時、こう回想をした。この学校は合わないかもしれない。

 独りが良い、単独行。

 そう言われたからそう育ったわけではなかった。

ただ、そんな時に伏せていた目を上げるとこの綺麗さのある学校で絵画の話しをしていた先輩ピクシブが急ぎ足で、前列の階段を上って来ている所に目があった。

 先に向かったはずなのに何故。

 そんな事を思った後に、この人のはにかむ笑顔を見て、何だか妙な安心感をジュールは抱いた。まぁいいか。

 辺りをふと見回してみる。おもむろに。

 校風は彼からしたら校則が厳しく感じられたが、髪の色や髪型や化粧については緩い。

 だが、あえてそのまま際立つ姿をするのも少なかった。

 ジュールもワックスを付ける位で収めている。

 不満足ながら黒髪の襟足を整えながら目線を視界の端々と合わせた。

 飛び込んでくるように入ったその色は絵画の話しをしてくれた、教室の後ろの席の琥珀色の髪色をした女の子であった。

 優しく柔和な色感がゆっくりと目に馴染むように色が残った。

 首と目先がそのまま固まったままでいたが、目は合わさなかった。

 少し間が経っても、彼女は前を見ていた。

 気を取り直してジュールは前方へと体勢を立て直す。

 式典はそろそろ始まりそうだった。

 両サイドの教師陣も集まり、段々と波のように静寂さが訪れていった。

 顔も表情に強張りを覚える。

「君は顔に力が入っているけれど、何か困った事でもあるのかい。」

 何気なく声を掛けてきたようだが突然で驚いた。

 隣に座っていた男だった。

「ああ、何となくな。初めての場ってこんなものだろう。」

 ジュールは当たり前のことを当たり前に返してみたらしい。

 彼に対して、悪い人と取られないが、間が悪く感じられてもいいと踏んだのだろう。

「そうかい。では、時間まで気楽に待とうか。」

 そう爽やかに答えて、気長そうな顔は綻んでいた。

 入学式が始まった。壇上に一人の白髪の険しい顔をした老人が立った。

 校長。

 そして、話しが始まり、新入生への歓迎・気構え・心持ち・激励・締めの挨拶。それで終わる。長々と二時間は掛かった。

 何人か長時間の屹立で倒れて途中で退室していた。

 ジュールは他の事を考えていて少々途中から話の分岐の多さから、校長の言葉を真に受けず、何か携帯端末は無いかポケットを漁った。手荷物はカバンに入れて持ち歩きをしていなかったと不注意さを嘆く。

 そのくらいにはつまらなかった。

 ウェブサーフィンで何処か遠くの国へ出掛けたい。そう思った。

 と思っていたら、新入生の代表らしき子が壇上に上って行った。

 生真面目でショートヘアで琥珀色をしていた。

 聡明に見える顔立ちをしているから主席でもおかしくは無いだろう。

 あの子だった。

 校長の壇上前まで立ち、カナリアのような綺麗な声で。

「私たちはこの高校に入学し、学業及び体育を意気軒昂にこなしー」

 宣誓を耳に流しながら聞いていると自分の今後も考えてみたくなった。

 学校生活は何をするか。

 中学時代は無味乾燥で良縁も無く、学業はそこそこであった。体育なら活躍できたくらいか。

 部活を入りたいとは思わなかった。

 労力が部活動ではなく縦社会に向いていたのが、そう思わせる原因なのかもしれない。

 高校生になった途端に孵化するように何かに変われるわけではない。

 なるようになればいいや。

 横目で音をした方を見る。宣誓を終えて、段を跨いで歩いている音であった。

 その子は歩いてくると、近くの席に座った。

 軽く目が合った。

 ジュールはきょとんとしたが、その子は真顔だった。

 その顔に返す顔が思い浮かばなかったので、前を向いた。

 くすりと笑う控えめな声が横の男から聞こえた。

 面白くない。

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ユグドラシル・マギナ 群青 塩湖 @enco-gunjo

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