story1 -絵画のシルエット-
桜が目の上を舞い落ち、視界を白桃色で染め、弧風で絨毯のようにしきつめられた花弁が湧き上がるように地面のアスファルトを色淡くしていた。
その中を通るのは桜並木を歩いている二年生・三年生の在校生達と皺一つ無いブレザーを着た入学生だった。ジュールなるこの男子もその一人であった。
紺色のブレザーにチェックのスカートに赤いリボン。
女子服が目に付くが気にしないことにした。
歩くには気怠いが良い色彩と香り漂う、これが普遍となり得るのかと心に留めておく。
一時に見える非日常を満喫をして、その道を紡ぐように桃色が沿うのも気分が高揚していいかもしれない。
春の陽気さは歩幅を縮める。そうしてジュールはこの道の天を仰いだ。
ガラス張りの掲示板に視線の高さを合わせてみて自分の着席番号を確認して、昇降口をやや慎重に上ると下駄箱を見て感動を覚えて、ローファーを丁重に脱ぐ。
そして、校内の小洒落たモダンなタイルに足場が広がっていて、空気は廊下を吹き抜けていて新鮮で意気揚々と視線と味覚が奪われた。
その間を縫うように生徒達が粒のように、一面にポーンが流れていくようで、彼もその一員として歩いている事に実感を覚えて、何だか肌寒く感じていた。
この流れゆく校風に彼が心配事を一つ増やすには十分であった。
独りとは寂しいというものとは聞くが孤独にもなれている彼にはその事に納得して落ち着く才覚は持ち合わせていた。
ワンフロアを上がって行き、長い階段を踏みしめて鞄の重みを感じながら、上を見て譫言を考えつつ進む。
そして、二回フロアでは通るように廊下が広く、この生徒数を通すのに悪くなく、壁には美術部の先輩らしい作品が何作か丁寧に飾り付けられていた。
正直、美術らしい美術の知識には乏しい彼にとって、有り難みが解らず、苦戦して二・三分程鑑賞していたが、この絵画の腕先の奇妙な動きや、背後に明らかに不自然さを感じる。
彼ながら理解ができないなと、認識して諦めた。そうして怪しげな顔を上げようとすると。
「あなたは絵画に興味があるの。」
驚いた。急に話しかけられて。つまらなさそうに見てた彼自身の目が点にになってしまったのを気付いて動揺を感じたが返答してみた。
「ああ、少し気になってな。大して詳しいわけではない。」
「そう。」
この女の子は何なのだろう。悟り目でながら生気のオーラを感じる。
一言で言えば、綺麗、だった。
「この絵は多分、こう伝えたいの。」
彼女はスラスラと専門用語を並べているようだった。
抽象画・写実画・派閥があるくらいしか頭にはない彼には念仏を唱えているようであった。
その軽く饒舌でありながら自慢げでもないその口調と気取る気も無い、その声色は聞いていて損はなかった、侘しい白く透き通る心地良くなる声はその彼女を象徴していてジュールは言葉を少しつぐみ聞き込もうとした。
聞き疲れてくると、彼女は身を翻してこの人には理解できないだろうと愛想を悪く、視線をジュールから外して他の生徒の流れに沿って、かつ他の生徒は違い、おぼつかない足取りではなく、さも自分の家であるかのように生徒番号や部屋組の紙も見ずに必然に入っていった。
そうしてジュールは目をしばらく吸い寄せられてように追随していて、目に残ったあの振り向き様の顔は忘れないだろうと思い込んだ。
普段、人に声も掛けられない身だったのでジュールは多少悩み通したが答えはでなかった、
興味を持って接してくれたのかもしれないと、あの状況は理解できた。
やがて、チャイムが耳に飛び込んできて辺りを見回すと、教室に全て生徒が入り込んでいて、独りで取り残されていて、端書きのメモ一枚を急いで見て、さっき入ったあの子の教室であると気がついた。
まぁ、いいか。
遅刻馴れしているジュールはこういう事態には平静でいられる。
入ってみると教室内では教師がホームルームを開いていたが、ジュールは何の気無しに、それを通り過ぎ、そしてジュールが作った静寂を掻い潜るように席順を見て着席をした。
窓辺に着席。いいかもしれない。
小うるさい教師がジュールのアイデンテティを否定するような言葉を並べてきたが、それも窓を開けて風で流した。
校庭の向こう側には海があり、表面は小さく波打ち、それぞれの波が光り輝く燦々とした太陽光全てを照らしつけ校舎に反映させて、目に入るには眩し過ぎた。
校舎全体がその乱反射して海が作った生きた芸術の当社はそういえば登校時に見たかもしれない。
頭に響くうるさい声は海風で潮が引いていって、そして。
振り返るとそこにはあの子がいた。
目が合った。
よく見ればその子は海に沿った蒼白な際だった顔をしていた。
ジュールの目の中の映像のアウトラインがその子のシルエットに満ち溢れてくる。
「早く、座って。私も目立つから。」
目が合って彼女はそう答えた。風でサラサラと波のように琥珀色の短い髪が横に揺れている。
「ああ、悪かった。」
そういう子を尻目にたじろいで座ったせいか着席に若干の違和感。
まとに座れず肘や臑を打って、何とか平静に戻って心を保つ。
席について精神の調子を整えて、深めに呼吸をして背の後ろにあの子から漂うオーラを肌で感じながら縮んで行くようなジュールは平静の自身に対して、何だか弱さを自覚するのに対して、怒気の籠もった剣幕でジュールのアイデンテティを崩しに掛かる教師は何だか彼の平静さを均等化して心拍を整えてくれるような安定剤となり、やがてその剣幕も寂れ落ちて、もう諦めたらいいのにと、心の中の彼自身に思わせる位の微動しない表情で怯んでいき、違う国からやってきたのかと自己開放させるのには良かったのかもしれない。
その教師は一呼吸置いて、単調化したしゃべりで今後の入学式・オリエンテーション・部活見学と淡々と説明をしていき、ジュールをさして相手にしないことを決めたらしい。
入学式は清く正しそうな先輩方の風貌を見て習えとばかりに強い視線で言い放つ。
何があるのだろうかという期待感と、上手くやっていけるかどうか解らない不信感と至極どうでもいい説明が助長であるというこの教室の雰囲気はジュールの勘を鈍らせるには疲れた。
そう言えば後ろの席にいる絵画の子を想うには感性が余り足りなかったのだ。
教師は教壇から降りて退室をした後に、生徒達も続々と講堂へと固まったり、ちらほら分かれて流れて行った。
そうしてジュールも後を続くように出て行こうとする。
何も考えないでそのまま素の自分で彼は歩いていた。
余り人には興味が引かれなかった。しかし、あの絵には興味があった。
歩いている足を止めて通り掛かって絵を眺めてみて一考する。
先程のあの絵画の説明から解釈をするに、腕先の細かな動きが鮮明に不思議さを与えるのには技術がいるらしく、この世の怪奇さを示していて、写真と抽象の合間を取った表現で描かれている。
それを明確化するためには背景の不自然さにこの人物画とは調和しない事もまた、奥深い表現となり、この絵が作品化されているらしい。大まかな事はあの子が教えてくれたが、後は理解できないか、頭の隅に置いておいた。
歩幅をゆっくりと進めている所、誰かと肩が当たって反動で跳ね返された。
「ふふん、何の考え事をしているの。」
その肩と当たってしまった長身の女生徒はジュールを後方の下から、顔を覗き込むように、顔を器用に、大きな瞳で、鈍色の工芸品のような黒色の髪艶、その顔はジュールの顔へと迫っていた。
「この絵に興味があるのなら、あなたはここでの正解に近い考えを得たの。」
支離滅裂な言動に反して、真っ直ぐと柳眉を主とした顔立ちで、細身で尚且つ大胆不敵な一面とミステリアスさがジュールの目の中で際立った。
そして。
「正解だったら何なのか解らない。」
「それは正解ではないの。不正解に近い言動だけどね。一年生クン。」
もしかしたら先輩かとは思っていた。ジュールは頭の中で混乱して言葉の一言一句に気を付けようとしようとしていた。
確かにネクタイは上級生を示している。
堂々とした品のある容姿は持ち前ながらだろうが。
「先輩でしたか。もしかして、失礼かもしれませんがこの絵を描いたのはどなたですか。」
少々緊張した。入学して早々。誰かに嫌われるのも嫌であった。
「それは失礼よ。私が描いたの。」
「ああ、やはり。」
「それは良い意味でのトーン。私の後輩一号はあなたにするわ。」
ああ、面倒な人なのだろうと彼は感付いた。
「俺は絵の知識から技術まで、まるでありませんよ。」
「興味は感性を表現するの。だから私の後輩でいいの。」
「じゃあ、それで。」
適当に流して去ろうとしたら腕を掴まれて、こう女生徒が彼にこう言った。
「放課後、暇なら美術部に来なさい。それで失礼を働いたことを許すの。では先に。」
そういうと先輩は不適な笑みを浮かべてきて去ろうとしたが、立ち止まり。
「そう言えば、名前を聞いてもいいかな。あなたのお名前は。」
「ジュールと申します。」
「ジュール。言い名前ね。私はピクシブ。よろしくね。」
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