ユグドラシル・マギナ

群青 塩湖

prologue -星煩い-

 雲海をのんびりとゆっくり足を大股にして小距離を進むようにして闊歩する。

 またたいては下にいる世界が曇天のように鼠色に発色をしている。

 雲を仰げば青く澄み切った心洗われるような気分に褐色と満ちてくる。

「綺麗さ。」

とは何なのか。

 そう嘆く前に私が選択した決断は。

「ーこの地球(ホシ)を壊す。」

ことだった。

 天上の元から緩りと降りしその御言葉を私は白画で描く。

 指は未だ軽く動き、疲れの静止は簡単に退けられていく。

 この絵を描くのには私は指の先に都合が良く骨格ができているようだった。

 あの言葉は曇り行く空に小さげなランタンを灯す勢いで私に目を見上げさせた。

 大事なのは命運、そして何をして来たかという軌跡、地に出でしこの偶像は類いまれなる神の示し合わせ。

 詩を唱えるのは昔から好きであった。

 優しい気分の際には温かい心燻る詩。

 恋しい気分の際には冷たい心寂しい詩。

 どんな時も、私は詩を詠む。

 起床・就寝の思い瞼のまどろみと幾度も寝てもいいという朝夕。

 古いラジオのように霞掛かった声が秋を風景美として自分の耳へと付与する。

「あなたとは何ですか。」

「私とは何ですか。」

「見つけてもいいと思える存在ですか。」

 それは考え方を学べばいいという訳ではなく、人一人では手に余る事なのです。

 あなたは時に物事を考えるでしょう。

 ですが、それは考えた事にはなっていないのです。

 想起しているだけでは後ろにしか視野は花咲きません。

 私は子供の頃、学問を芸術のように崇拝していましたが今は、必要知識には無機的に、愛好に沿い広義的に言えばチェス経験の全記録を言わされてしまうような、そのような恥じらいを覚えるような年頃になりました。

 私は何を学んでいいのか解らなくなりました。

 学習の軌跡は弧を描くように、輪郭を今の自分が捉えられ得るように。

 これは決して、悲観的に見えるのではなく、学識と年齢をグラフ化したら、まず縦軸を無視して、横軸は不相応に短い、未だ。

 日本の句読点の美しさにこれは近い。

 近代のような勢いで私は生きていたいのかもしれない。

 自分を理解した気である人間が一番嫌いなのかもしれない。

 私には肯定と是正が同じ言葉に見える。

 築いてきた文明はもう覆らない。そう述べてきた人類はそれらを失ってしまった。

 そして、人類がちっぽけで取るに足らない存在を続けてきていた事に感銘を受けた。

 哲学者で且つ、物理学者であるその時代の祖である者はこう告げた。

「時代は繰り返す。だが、積み直すことはできるかもしれないが、その願いはいずれ追い得るだろう。だから巻き戻せばいい。歴史を見た。引くべき線は見えた。」

 この祖を尊敬に値すると位置づけた私は、自分がその時代を担うために技術を背負って歩み出でた。

 その純白の真っ新に白く輝くように飛翔していく服は姿を変え、そうして私は下界(セカイ)へと舞い降りる。

 眩い光が四方八方、彼女の進行に同調するように白くデータ改竄されていく。

 有限にはとても見えない幻想が過去へ過去へと螺旋に階段一段一段が鍵盤をそういった曲が予め存在していたように奏でて一歩一歩踏み歩いていく。

 白鍵・黒鍵だったそれは音に色を持たせ、人間が作った厚みのある心的データ容量よりも勝っていた。

 聡明に広がる光景は白かった入力の指先はそう唄った。空気中にあるこの白い煙として吐き出された息に意味合いを持たせた。

 それは温かいテキストが口元を潤した証拠で有り、そしてなんだか私を燻らせるのには丁度良かった。

 この地に生きとし生ける血を上らせるくらいにはなんだか疲れた。

 そんな疲れ際の境目に注ぎ込むプログラムは何色だろうか、でも見詰めたら解るはず、それは何色。

 色遣いは繊細で、指運びでグラデーションすらセンスを疑われないように。

 まだまだ朝は来ていない。人生の始まりはいつしや。

 雨降って地が固まり、日を浴びてまた芽吹き、雪降ってしんしんと積もる。

 そんな動物であり、植物であり、何かまた違う何かである。

 そう私は空気と共に同化してまた白くグラデーションが出来る。

 暗色にはなるが黒くはならず、白くさらに白く白銀へと変わっていく。

 また灰白に、たまに琥珀に、紅白に、蒼白に、純白に。

 千とある空気の万化さは誰とも言わず変わっていく一方で写り得ない。

 私を一枚一枚越えさせて行った防壁は硬く、存外に体は疲弊していき、破損ファイルが蓄積されてきた。

 百枚までは追憶で遡れるが、それ以降を思い出すのには、目の当たりにしているコードや数値が駆け巡っていき、彼女自身のキャパシティを通り越し、それ自体は必要であるがアースをされて、彼女の体外へと排出して行った。

 そうやって共に生気ごと抜け出して悲しく足取りも重く、指先に力が入らず、精神は摩耗している。

 止まればこの空間の中で、自信の輪郭を象るデータすら消失して、私の全データが無となるだろう緊張に耐え、何があろうが前進を止めない。

ーそう、これは歴史的エンジニアの大罪とされた大業としての人類最後の英雄譚。

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