DAYS1 -AnotherSide2- 『閉じているなら開けたらいい』

『DAYS1 -6-』の最後から『DAYS1 -7-』の冒頭にて、ヨミが大型ノッカーと対峙していた時の出来事

【ヨミ視点】



「いち…、にの…、さん!」

 三つ数えた後、おにーさんはドアノブを回し、思い切りドアを蹴り飛ばした。その瞬間、腰を低く落とし、全身のバネを使って半開きになったドアから外に飛び出す。デカいヤツは急に開いたドアに押し出され怯んでいるが、距離は一メートルも無い。


 デカイヤツ、通称大型ノッカー。正直一人で捌ける気は全くしない。誰か助けに来てくれないかなぁなんて薄い期待を抱きながらも、とりあえずドアを閉めてあげようと思い、足をドアに当てる。同時に、未だに怯んだままの大型ノッカーに銃弾を一発撃ち込んだ。


 命中した事に安堵しながらドアを蹴り飛ばして完全に閉めようとした瞬間、隙間からおにーさんのひどく心配そうで青ざめた顔が見える。それがどうにも情けなくて、みっともないというよりは可愛らしさすら感じて、思わず目を見てニッコリと笑いかけてしまった。


 こういう時に格好つけてしまうのは、きっと私の悪い癖だ。


完全に扉が締まり、施錠の音がして少し安心する。それで良い、後は私がこいつを倒せば良い。


 先程撃ち込んだ銃弾は大型ノッカーには当たったようだけれど、当たった場所は体のようで、ダメージはあまり無いように見える。狙えと言わんばかりに肥大している赤い右目を狙うのがセオリーなのだろうと思いながらも、相手も悪意を持ってこちらに体を震わせ向かってくるからどうにも狙いが定め辛い。何度も対峙している相手ではあるが、一人きりで挑んだのはこれが始めてだ。特に私の場合は周りが強かったから尚更、甘やかされていたんだなぁという事を実感する。


「あーあ、一発目がダメだったかぁ」

 私はボヤキながら次は大型ノッカーの顔面目掛けてもう一度銃弾を撃ち込むと、ヤツは少しだけ怯み、数歩後ろに下がって壁に背をつけた。当たったのは目では無く顔、顔の殆どが目だというのに何とも運が無い。倒せそうな雰囲気は無いが、目の周りはやはり弱点なのだろう。


 怯んだ今なら、と思い距離を詰め、至近距離で赤く充血している目玉に向けて一発撃ち込む。引き金を引くその瞬間にその目玉が厚い目蓋に覆われて閉まっている事に気付いたが、銃弾は銃口を飛び出した後だった。

「そういう事も出来るんですか……」

 銃弾は目蓋に当たって目玉には届かなかったが、おそらくは硬かったのだろう。ぴーちゃんを至近距離で撃った為かお互いへの反動が大きく、ノッカーは壁にバウンドした後に膝を付き、私も数歩後ろへと下がる。


 ノッカーには多少のダメージがあり、しかも膝まで付いている。それに、大型ノッカーは行動が全体的にのろまだ。なら、このまま押し切れるはず。


「閉じているなら開けたらいいじゃないですか!」

 私は頭の中でぴーちゃんの中に入っている銃弾の残りが三発なのを確認してから、目玉を目蓋で隠したままのノッカーに密着し、目玉を覆う厚い目蓋の下に銃を抉るように当てる。そのまま撃鉄を起こし、銃弾を撃ち込むと目蓋部分の皮が吹き飛び、隠れていた大きな赤い右目が再度あらわになった。


 ノッカーが小さく唸り声を上げる。ぴーちゃんに入っている銃弾は残り二発。

けれど、頭を狙っただけでも怯んだことを考えると、おそらく目玉に銃弾を当てさえすれば倒せるかは別として、距離を取ってリロードする時間くらいは出来るはず。

「とりあえずこれで一撃!」

 急いで撃鉄を起こし、目玉目掛けてトリガーを引いた瞬間。

ノッカーの唸り声がさっきよりも大きく、もう一度廊下に響き、目玉から血液が吹き出る。だいぶ効いている、だけれどまだあと数発必要なはず。


 けれど、この調子なら、おにーさんに胸を張って部屋に戻れるかもしれない。目玉に銃弾を撃ち込めた事で確かな手応えを感じ、ノッカーから一旦距離を取ろうと後ろへ下がろうとした瞬間、足に激痛が走る。

「痛ぅぅ!!」

 視線を下に落とすと膝立ちのまま、低く唸り声を上げる大型ノッカーの右腕が私の足を掴んでいるのが見えた。その力は物凄く強く、一瞬で着ている衣服が破け肉が抉れる。


 迸る激痛で一瞬諦めるというネガティブな意識が心を支配しそうになるが、まだぴーちゃんには銃弾が一発残っている。それをもう一度目玉に打ち込めさえすれば必ず状況は好転するはず。

だが、ヤツは私が撃鉄を起こそうとすることすら許してくれないようだった。


 目玉を撃ち続けた事でヤツの戦闘能力が上がったのかとでも思うくらいの反応速度で、私の首は鷲掴みにされる。


「っぐ! ああああ!」

 ノッカーの不快な唸り声をかき消すくらいの私の叫びに、おにーさんはどう思っているだろうか。そんなことを思いながら、体が宙に浮くのを感じた。


――あんなに格好つけたのに私、死んじゃうんだな。


 私の首にギリギリと力を込めながらヤツは立ち上がり、この世の物とは思いたくもないような顔で嘲笑った。もう殆ど呼吸も出来ないくらいに、私の首を掴むヤツの手の力は強まり、私はもうすぐ死ぬだろうということが分かった。


――ごめんね、皆。


 私にはもう諦めるしか、無い。けれど薄れゆく意識の中で、ドアの開いた音が聞こえた気がした。最後の力を振り絞り希望の求め目を見開くと、今まで私を見て笑っていたその目玉が、おにーさんの部屋の方向を向いている。

 

 その目玉が見るその方向に私の希望がいるのかを確認したかったけれど、私の意識はそれを許さずにゆっくりと死の淵へと沈んでいこうとしていた。

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