エピローグ

 アキ君が事故にあってから二ヶ月と少し経った。

 あれからアキ君は順調に回復し、声も出せるようになった。歩行も安定してきており、松葉杖なしでも歩けるようになったのは記憶に新しい。

 そして今日――アキ君が退院する日、私は病院玄関でアキ君が出て来るのを待っていた。外は雪がちらついており、お陰で風はないけれど、懐炉を持っていても寒い。

 早く来ないかな――と思っていると、自動扉が開き、私より少し背の高い男の子が歩いてこちらに来た。


「――迎えはいい、って言ったのに」

「この雪の中、傘をささないで帰る気なの?」

「雪だからそう言ったんだし。売店で買うつもりでした」


 そういうけれど、アキ君の手には傘らしきものはない。着替えの荷物を持っているようだけれど、それだけ。それ以外は前日までにアキ君のお母さん達が持って帰っているらしい。


「ゆっこの姿が見えたから買わなかったんだよ。さ、帰ろうぜ」

「あ」


 そう言ってさらりと私の持ってきていた傘を取って、開く。二人くらいなら余裕で入れる傘にアキ君は一瞬固まりながらも、「早く帰ろうぜ」と笑いながら言った。

 私は責めるような視線を向けながら肩を並べ歩い始める。久々に肩を並べてみると頭一つ分は身長差があり自分でも驚いた。それに、ここまでくっついて歩いたことも殆どないので少し心臓がうるさい。


「この雪じゃ、明日は学校休みかねぇ」

「……サボり癖でもついたの?」

「そうじゃないし久しぶりだし意地でも行きたいけど……雪かき絶対大変だし」

「させてもらえるといいけどね」

「それもそうだ」


 いつもの調子でアキ君は笑う。まるで私がしている意識をしてないようで、少しムッときてしまう。

 ……これじゃあ、私だけが意識しているようで、不公平だし。


「にしてもゆっこ、なんか不機嫌? 何かあったん?」


 しかし幼馴染として築いて来た時間はそういうところには気づかせるらしい。しかし肝心なところは鈍いのに変わりなく、寧ろその言葉が私の決意に火をつけたのかもしれない。

 私は無言で一歩先に出る。そして振り向いて、ギュッとアキ君の胴に腕を回して、胸元に顔を埋める。ちょうど耳とアキ君の心臓の位置が重なり、心臓が早鐘を打つ音が聞こえた。


「あ、アキ君もドキドキしてる」

「……俺だって余裕あるわけじゃないっての」


 顔を上げれば明後日の方向を向き、小声で早口気味に呟くアキ君。私はしてやったりと思った。

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春に名残 束白心吏 @ShiYu050766

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