第13話
アキ君が入院してから一ヵ月以上経過した。
あれから毎日、私はアキ君のお見舞いに来ている。殆どは会話だけをして終わるけれど、休日のお見舞いの時にはリハビリを手伝うことや、外に出ることもあった。アキ君のテスト前は勉強を見たり(得意分野のみ)もした。とはいえ一ヵ月。色々あったとはいえ、そう劇的に治るものではなく、少なくてももう一ヵ月はかかるというのが先生の談、らしい。
それでもまだ全治までには至らないらしいけど……。
「そういえばアキ君は初詣どうするの?」
私は今日もお見舞いに来ていた。冬休みに入ってからのここ数日は殆どずっとアキ君の病室で過ごしていると言っても過言ではなく、最近は雑談の他に各教科から出された冬休みの課題を二人で消化している。
数多の事で競争すること十数年。こうして同じ机で勉強するのは何気に小学校以来だったりする。覚えてる限りでは低学年以来だから……十年ぶりくらいにはなるのかもしれない。だからか少し新鮮だ。
課題はそれほど量がある訳じゃない。キリのいいところで度々小休止を挟み、水分補給、休憩のタイミングが合えば少し雑談を繰り返してのんびりと進めている。それもあってか時間の流れはいつも以上に早く、今日ももう夕暮れ時になっていた。
片付けをしながらふと思い出せた質問をすると、アキ君はノートを見せてきた。
『外出許可をとってある』
アキ君は勉強に使っているノートとは別のノートにそう書く。
私は心の底からほっとした。声は一ヵ月経った今でも回復していない。しかし回復の見込みはあるらしく、早ければそろそろ声が出て来るかも? とのこと。足はリハビリ中で、松葉杖を使えば歩くこともできるけれど、リハビリ中以外は殆ど動いていない。アキ君が言うには『下手に歩いて入院期間が延びるのは嫌』らしい。だから今年は一緒に初詣いけないかな? と思っていたけれど、どうやら初詣の時は例外のようで、松葉杖を使うらしく、明日からはその練習に時間を費やすらしい。私もお手伝いできるかな?
そんなことを考えている間に片づけは終わり、私は鞄のチャックを閉める。冬休みに入ってから、お母さんが出してくれたこの鞄を使うこと3回。しかしもう1回2回使えば今年の使いおさめになることに少し寂しさを感じる。アキ君の病院は年末年始のお見舞いは出来ないのだ。
少なくとも一月一日は一緒に過ごせることに溢れんばかりの幸福と、数日会えないことへの一抹の寂寥感を同時に覚えながら鞄を肩にかけ、部屋を出ようと扉に向かう。
その最中、後方から声が聞こえた。その声はとても掠れていて、小さく、だけど数ヶ月聞けていなかった、懐かしさを感じる――
「ゆっこ」
――聞き紛うことのない。アキ君の声だった。
驚きのあまり振り返る。私の表情を見て満足したのか、アキ君は口角を吊り上げて更に口を動かす。
「また明日」
「――うん。また明日」
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