どうやら後輩S級美少女は俺を怖がらせたいみたいだが正直、悔しがる表情が超キュートなので俺はなにをされようと怖がらない

タカ 536号機

怖がってくださいよぉ〜


「誰〜でしょう」


 そんな声と共に突然俺の視界が塞がれ真っ黒に染まる。……ったく。

 俺はゆっくりと俺の目を塞いでいる手をどけると後ろを振り返ることなく返事をする。


「また、七瀬だろ」

「くっ、正解です。で、でも少しくらいはびっくりしたり怖かったりしたんじゃないですか!」

「いや、全然」

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 俺は後ろから聞こえるとても悔しそうな声を聞き密かに口角を上げ、そしてゆっくりと振り返る。


「先輩も少しくらい怖がってくれてもいいのに……大人げないですよ」


 そこには最近ではすっかり見慣れたS級美少女な後輩こと七瀬 一香が不満げな顔をしてブツブツと言っていた。

 相変わらず短い茶髪がよく似合う小悪魔な後輩だ。その心底悔しそうな顔がなんともたまらない。


「あ〜、なにニヤニヤしてるんですかっ。くぅ、絶対にいつか怖がらせてやるんですからっ」

「はいはい」

「そんな余裕の表情なくしてやりますからねっ」


 負け犬の遠吠えよろしく悔しそうに俺を見る七瀬に対し俺は適当に返事をする。やっぱり面倒くさくはあるが悔しがる顔は可愛い。


「じゃあ行きましょう……と見せかけてワァッ!! ど、どうですか?」

「うーん、0点」

「ひ、酷すぎます。もう少しくらい」

「0点」

「くぅ、なんて嫌な先輩なんですかっ」


 いや、お前の方が先輩を毎回怖がらせようとする嫌な後輩だろと思ったが少し涙目でかなり悔しそうな顔を見せてくれたので許してしまった。……こういうとこズルいんだよ。


「あっ、ちょっと忘れ物を思い出したんでここで待っててください、次こそは絶対に怖がらせるんでっ」

「誰が待つか!」


 しかし七瀬は俺の返事など聞かず駆けて行ってしまった。いや、自由人すぎるだろっ。

 最早慣れてしまったので最近は聞かないことにしているが本当になんで俺をあそこまで怖がらせたいのだろうか?

 いや、まぁそのおかげで悔しげな顔が拝めるんだからいいんだけど……それにしても謎だ。


「誰〜でしょう」


 七瀬が去っていってしまったので俺が前を向いて歩いていると再び視界が塞がる。というかこの声……またか。いや、まぁ俺にこんなことするの1人しかいないんだけど。


「七瀬……さすがに同じの2回は舐めすぎだろ」

「当たりで___2回? 先輩と今日会うの初めてですよね?」


 七瀬が当たりと言いかけたところでなにか違和感に気がついたようにそんな声を上げる。

 だが俺からすれば七瀬のセリフの方が違和感でしかない。

 いや、さっきまで俺と話していただろうがっ。あれか? こうやって怖がらせようとしているのか? だとするなら七瀬も多少は怖がらせる術が成長したように思うが。


「本当に初めてなのか?」

「えっ? いや、本当ですけど。なんですか、先輩もしかして私と今日もう話したとか言うんですか?」


 俺が振り向いてそう尋ねると七瀬は困惑したようにそう返してきた。一体、どう言うことなんだ。



 *



『あぁ、今日も思わせられなかったなぁ』


 私はうわ言のように誰にも聞こえないその声でそう呟く。

 あぁ、悔しい。怖いと少しでも思わせられたなら……

 いっつも上手くいかない。完璧に怖がらせているつもりなのにあの男には通用しない。

 むしろ楽しんでいるようにも見える。


 あぁ、笑ってる顔を思い出すと悔しい思いがこみ上げてくるなぁ。……でも、あの笑顔を見てるとたまに心臓がドキッとするだよね。

 ……心臓なんてもうないはずなのに不思議な話だ。


 今は笑っているんでしょうがいつかはこっちの世界に必ず連れてきてやるんですからねっ。私は体を起こすとあの男に向けて聞こえないであろう宣言をする。



 *



「先輩、私のことばっかり考えてるから変な妄想でもしちゃったんじゃないですか?」

「俺につきまとい怖がらせようとしてくる生意気な後輩のことなんて会ってない時くらい忘れたいわっ……って言いたいところだが」

「なんて失礼なっ……って続きはなんですか」


 私は私の目の前に立ついつまで経っても私の気持ちに気づいてくれない鈍感な先輩と目を合わせながら続きを催促する。

 どうせ、先輩のことだから期待した言葉なんてくれないんだろうけど。


「その、俺にとってお前は特別な存在なのかなぁって最近は時々思ったりしてるよ」

「えっ?」


 えっ? う、う、う、嘘でしょ!? せ、先輩が私のことをと、と、特別な存在って今っ、今っ。

 こ、これって告白!? そうなんですか!?

 えっ、いやでもどうしよう。今日しかもこんな突然告白されるなんて思ってもいなかったから心の準備が。


「それは……その」

「多分お前が思ってるままの意味だ」


 ふぇぇぇぇぇぇ!?

 返事ってなに言えばいいんだっけ!? 「ふつかものですがよろしくお願いします」だっけ?

 いや、なんかこれは違うような。

 あぁ、とにかくどうしようっ。どうし___。


「お前の言う通りお前みたいな馬鹿な後輩は中々いないから脳にしみついてんのかもな。俺にこんな馬鹿なことしてくるのお前くらいだし。ある意味特別な存在かも」

「はぁ?」


 えっ、あれ? さっきまでの幸せな気持ちは?

 一体どこへ行ったの? えっ、なんで先輩笑ってるの? あぁもうこの先輩は……。


「ん? どうしたそんな顔して」


 どこまでも無神経で、考えなしで、私の心をかき乱す。


「知りませんっ」

「なに怒ってんだよ」

「それより……いいですか先輩っ」


 珍しく焦ってる先輩を指差して私は何度目かも分からない宣言をする。



「明日は必ず怖がらせてやるんですからっ」

『明日は必ず怖がらせてやるんですからっ』






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 一応ホラー。


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 カクコン用の1話短編でした。

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