第4話 帰依
やれるだけのことはやり、自分以外の者が段々と己から離れていくと、自然と自己との対話、そして、人は自分の心の中に住まう神との対話が増えてくる。ましてや実力が拮抗した者どおしの一手差の斬るや斬られるやの世界で生きている中にあっては、哲也は神への祈りに傾倒していった。
それまでは、3勝1敗ペース、良くて4勝1敗ペースで進み、後半、失速して、前回リーグ戦では初めて13勝6敗での次点3位だった。ただ、鳩森八幡神社へのお参り、そして、神との対話を始めてからというもの、自身初の8連勝を記録していた。例年、14勝〜16勝が昇段の目安。ましてや、前期次点ポイントがあるため、今期も次点でも良いので、フリークラスながら、プロ棋士にはなれる。ますます哲也の神頼み、いや、神への帰依の度合いは深まっていった。
迎えた9回戦、二通りの着手に対局中に迷った際に、鳩森八幡の神に問うた時、受けの棋風の普段の自分では決して選ばないであろう攻めの手を神の声は示してくれたように感じ、心に響いた神の声に従った結果、一手差の激戦を制し、9連勝を飾ることが出来た。
「今の俺には鳩森八幡の将棋の神がついていてくれている!」
そう哲也は、思うようになり、前半戦をトップで折り返し、いよいよプロ棋士への意識が強まっていった。夜郎自大になりかけていたと言ってよい。しかし、次からの一戦、年齢制限ギリギリの最後の戦いにおける星の潰し合いになること、負けられないとの思いから、手が縮こまり、自己の中における神との対話で示される手も自分の棋風にあった受けの手が多くなり、結果、踏み込みが甘くなり、上位者との対局で2連敗を喫した。こうなると、麻薬をやっていたわけでもないのに、躁鬱の振れ幅に自分の心がついて行くことが出来ず、寝ている間でさえ、自分との対話をずっと行い続け、夜の睡眠もままならない状態で残りの対局に臨むようになる。神経が昂ぶり、覚醒状態であったからか、その後は2連勝で11勝2敗。しかし、その後の睡眠不足や将棋の研究もままならない緊張の連続の日々で平常心を失っていた中で指した対局では3連敗。さらに平常心を完全に失っていた中で指した16回戦では即詰みの19手詰みを逃し、局後の感想戦で指摘されるという、一局で二度負かされた気分となり精神は崩壊。トップを走っていたはずであったが、11勝5敗で4位にまで順位を下げていた。
「俺はやっぱりプロ棋士にはなれないのか?神よ、どうなんだ!?教えてくれ!」それは、もはや絶叫に近かった。詰みを逃して敗れたその日は、神への帰依が自分に足りないのだと感じ、イスラム教徒が行うラマダンよろしくゴザを敷き、鳩森八幡の将棋堂の前で一心不乱に祈りを捧げて朝を迎えた。
身も心も極限状態にまで追い詰められた17回戦。対戦相手は、女性で初の棋士誕生か?と注目を集めている有村冴。しかも、プロ棋士となったら、即、将棋番組への出演依頼が殺到しそうな美しい顔立ち、そして、プロポーションをしていた。有村冴は、前半、2連敗スタートながら、後半から9連勝を含む12勝4敗。三段リーグながら、残りの2戦の戦い振り次第で初の女性棋士誕生となることから、いつも以上に多くの注目が集まっていた。有村冴はその容姿端麗な美しさに相応しく、歩を巧みに使った妖しい陽動作戦が得意で、相手を幻惑する振り飛車党の指し手であった。
将棋は先手の有村の誘導する持久戦ペース。激しい中盤の鍔迫り合いから、お互い相手陣に龍を作り合う展開へと発展。一進一退の塹壕戦のような戦いから、一歩抜け出したのは哲也の方だった。相手玉への攻めか守りか着手に迷った際、神との交信を図ろうと目を瞑ると、神に化身した自分が目の前に座る有村冴の服を剥ぎ取る光景が浮かんだ。嫌がる相手からどんどんと膂力にモノを言わせて、衣服を剥ぎ取っていく。先程まで挑むような勝負師の目をしていた有村冴の凛とした顔は恐怖で怯え、赦しを乞う声を発し、嫌がる姿を晒し、その光景に哲也は興奮した。
「イヤッ、ヤメテッ!哲也くん、ヤメテッってば。どうしたっていうのよ!いつもの哲也くんらしくないわ。」
「オレはもう今までの内藤哲也じゃないんだよッ!なりふり構ってられないんだ。オラオラ!こうしてくれる!」
「イヤッ、ヤメテー!お願い。。。」
哲也は興奮のあまり勃起していた。神からの啓示に従い、戦線とは遠くに落ちていた桂馬を拾い、銀をもぎ取り、香車を取って有村冴の玉を徐々に丸裸にしていった。有村冴の口から「参りました」の声が零れた瞬間、哲也はズボンの中で射精していた。
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