第16話「見つけたモノ」

 取り敢えず、道なりに奥に進むことにした。奥に進むにつれ、形を保った瓦礫が増えていく。それはついに姿を表した。


「これは……神殿か!?」


 キーが声を上げる。アーチ状の門から中に入れば、何かを伝えようとしているであろう壁画が長い廊下いっぱいに描かれていた。ひとりでに光る石が天井から光を注ぎ、手元のランタンを消しても暗さは感じない。

 しかし、それよりも気になる所があった。


「あ、アンカー! あそこで倒れてるのってレイじゃない? ……って、アンカー何処行くの!?」


 ルーンの制止の声も気にならなかった。そこにレイが倒れているのも気づいていた。でも違う。今はそうじゃない。それじゃない。大事な物は、もっと奥に。

 地面をひたすら駆けていく。普段なら重く感じる水の反発すら感じない。まるで地上を駆けているように走る。数多の扉を開けもしないで。勝手に開き、勝手に閉じていく。いつの間にか、後ろを追いかけていたルーンも自分を見失ったのか居ない。


 辿り着いた先にあったのは祭壇だった。祭壇も他の場所と同様、朽ちている所も多い。それでもそんなことを気にも留めず、自分は祀られているソレを手に取る。

 銅色の、それでいて光に翳せば虹色に光る欠片。こんなに早く見つかるなんて、幸先がいい。

 ……。

 いつまでそうしていたのだろうか。扉が勢い良く開く音で、急いで欠片をカバンの底に隠す。


「アンカー!!」


 その直後、レイが自分に飛びついてきて床に転げる。


「アンカー、ボクのこと探してくれてたってホント? 嬉しいなぁ!」


 ニコニコと笑いかけてくる彼を見ていると、少し胸が痛む。レイを置いて自分の目的を優先したことは、どうやら隠してもらえているらしい。いっそバラして責められた方がマシな気さえして目を逸らしてしまう。


「ちょっとレイ! アンカーの上からどきなよ、重そうじゃん!」


 目を逸らした理由はそうじゃないのだが、ルーンからの助け船はありがたく乗っておこう。

 ということで、重いからどいてほしいと伝える。


「あ、ごめんね。それで、何かいいものは見つかった?」


 上からはどいてくれたが、改めて視界を確保する窓を覗き込まれる。いくら此処が明るいとはいえ、多分反射で自分の顔は見えないはずだ。だから目が泳いでいるのはバレない、はずだ。

 おーい、とレイはルーンに声をかけられ自分から離れていった。良かった、気づいていなさそうだ。そのままルーンとキーのこの神殿についての会話に混ざりに行った彼を見て一息ついていれば、肩に手を置かれる。肩を跳ねさせつつ横を見れば、アイオライトが居た。

 アイオライトは小さな声で言った。


「何か思い出したのかい」


 彼と会ったのは本当につい最近だ。でも彼は優しく、信頼できる人だと確信している。そう、だからその発言には心配が滲んでいる。……緊張感も、二人の間には滲んでいる。きっとアイオライトにあの欠片を眺めているところを見られた。

 えっと、と言葉を詰まらせてもアイオライトは黙って聞いている。逃す気は無いようだ。でも。自分は他の三人に視線を送る。アイオライトも、そちらを見る。


「彼らに、聞かれたくないのかい?」


 自分はその言葉に頷いた。だがそれは真っ赤な嘘だ。正しくは誰にも聞かれたくない、なのだが。


「……わかった。じゃあ今日の夜、夕飯前に時間を作ろう。そこで話してくれないかい?」


 少し悩む。結局のところ、探し物の正体がわかっただけなのだ。しかし、それを知られたくはない。だとして、一人でこれから先探し物全てを回収できるとは限らない。今回は導かれるようにして全てが上手くいった。でも次は?

 悩んだ末、頷いた。自分はまだ子供だ。大人の力は使えるだけ使うべきだと感じた。


「二人ともーっ! 何の話してたの?」


 ルーンが手をぶんぶん振りながらこっちに泳いできた。キーとレイは……何か言いあってるようだが大丈夫なのか?


「大丈夫! 多分。なんかギロン? してて私のこと無視なんだよね!」


 だからこっちに来たの! と頬を膨らませながら言う。

 それは酷いね、なんてガラスの内側で苦笑する。

 レイはキーに対して、アーティファクトの研究家になりたいんだろと言っていた。つまり彼の将来の夢はアーティファクト研究家で、それに向けて勉強をしているならこの遺跡は強い興味の対象だろう。そして、彼は此処が第零都市のものだろうとも言っていた。

 そしてそんな彼が議論の相手にしている、或いはしてしまったのが正しいか。レイは第零都市が滅びた真相を知っている。らしい。……随分分の悪い議論だなぁ。にしては白熱してるけど、なんて彼らの方を見て思う。


 まぁ、そんなことはさておき。自分達は此処から出なければならない。楽しんでいるところに水を差すのは悪いが、レイに出る方法を聞かなければ。一歩足を出した瞬間、脳内に声が響いた。


「お前達、騒がしすぎるぞ。入れたのは俺だが、役目を終えたなら出て行ってくれないか」

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深海海底都市 板チョコ @itatyoko

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