第15話「瓦礫の中に」

 自分がキーに肩を貸しながら、ルーンが先導して進んでいく。あの大きな生物を倒してから、妙な生物達は自分達を避けていく。


「さっきの、こいつらの親玉だったのかな?」


 ルーンが、逃げるように散っていく生物を目で追いかけながらそう呟く。


「でも、それにしたって弱い気もするけどな」


 キーはその意見に否定気味なようだ。自分も親玉にしては弱かったと思う。しかし、ヤツが他に比べ大きかったのは事実だ。それを倒してからあのひょろ長い生物が自分達を避けていくのも。


 暫く王のような気分を感じながら歩けば、段々と景色が変わってくる。ピンク色に近かった壁や地面の色は赤黒く変わり、人工物の一部らしき瓦礫がそこかしこに見られる。


「此処って多分守護魚の体内だよね?」

「恐らくな」

「見て、二人共。これって家の壁に似てない?」


 ルーンは地面に落ちている欠片をひょいと拾い、自分達に見せてくる。自分はあの都市を見慣れているとは言えないが、それでも確かに見たことのある質感の欠片だった。きっと、この海底都市に住んでいる者なら目が腐るほど見ているはずだ。


「似てない、というかそのものだろうな」


 キーがルーンに、家の一部だった物を渡すように言う。彼女は素直に欠片を渡す。その瞬間、キーは欠片を握り潰す。手を怪我していないか気になり、手を開かせれば欠片は粉となって地面に落ちていった。


「いくら欠片になって脆くなってるといっても、脆すぎるな。素手で握り潰したのに手に傷一つつかなかった」

「えーと、つまり?」


 自分もルーンと同じように首を傾げる。それを見て、キーは自信満々そうに答えた。


「これはかなり古い物だと推測できるってことだ」

「そうなんだ! どれくらい前からあるやつなの? 10年とか?」


 流石にそれはないと思う。海中の流れで削られるとはいえ、そんなすぐじゃ定住の家を持つ方が損だ。


「そんな単位だったらアンカーの言う通り、家なんて建てるわけがない。普通に200年は大丈夫な素材のはずだし、俺の家なんて建ってから700年は経ってる」

「じゃあ1000年くらい前?」

「もっと、だ。1500年くらいだろうな、ほら見ろあの意匠なんか第零都市のやつだ」


 キーが指をさした瓦礫には、確かに何かが彫られていた。なんとなく人のように見えるが、人にしては頭に何かついていたり人っぽくない存在もちらほらと見える。これはなんだろう。


「さぁ。もしかしたら地上に魚人のような、人間に似てるけど人間じゃない存在が居たのかもしれないな」

「地上って人間の他にも虫とか獣とか居たんでしょ? だったら虫人、とか獣人~とか居たかもしれないよね!」


 居たらいいなぁ、とルーンがほわほわと妄想の世界に浸る。自分も考えてみるが、虫人はなんだか想像がつかない。獣人はなんだかこんな感じだろう、と思い浮かぶのだが。


「アンカーが獣人は想像できるのに、虫人が想像つかないってことは虫人は地上にいないんじゃないか?」

「えー! なんか寂しいからアンカーなんかいい感じの考えて!」


 そんなこと言われても困る。そもそも虫というものの記憶が曖昧だ。なんか羽が生えていて小さい、くらいのイメージしかない。なんならそれもイメージであって明確に記憶しているわけではない。


「こら、ルーン。アンカーが困ってるだろ」


 困った顔をしているとキーが助け船を入れてくれた。それだけなら助かったのだが、その後つらつらとルーンへの説教を入れてきたから救われたのは一瞬だった。売り言葉に買い言葉、キャットファイトのような小さな口喧嘩が始まってしまった。過度な罵倒とかは無いから、聞いてて不快感はないが疎外感はある。二人だけで楽しまないでほしい。少しぶすくれながら二人の喧嘩を聞き流していると、瓦礫が動いた気がしてそちらに目を向ける。


 ……いや、気のせいか。二人共喧嘩に夢中とはいえ気づいていないし。


「おーい! もしかしてアンカー君達かい!? 悪いけどちょっとこの瓦礫どかしてくれないかな!?」


 いきなり瓦礫の中からアイオライトの声がして二度見する。二人も流石にビックリして喧嘩をやめる。


「も、もしかしてアイオライトさん瓦礫の中に埋まってるの!?」

「大変だ、早く助けよう!」


 二人の言葉に頷き、瓦礫をどかしていく。大きい瓦礫はルーンと自分で、小さい瓦礫はキーで。最後の一個は手を貸す前に、下側から押し上げられて横に落ちた。


「いやぁ、子供達。助かったよ……あれ、レイ君は?」


 そのまま瓦礫の隙間から器用にアイオライトが出てくる。所々擦り傷があるが、大怪我はしていなさそうで安心する。

 周囲を見て、レイを探すアイオライトにレイはまだ見つかっていないことを伝える。


「そうか……。早めに見つけてあげたいね」


 その言葉に頷く。早く見つけないと出口を探せない。

 それに何より、彼なら出口がわかりそうな気がするから。

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