「苦痛の芽」第四都市の守護魚

第14話「謎の生物」

「アンカーすごーい! 探し物の達人だね!」


 それはレイなのだが、黙っておこう。多分、あまり多くの人に知られたくないだろうから。


「アンカー君、流石だね。時間はまだあるし追加報酬のために薬草を探そうか」

「あ、薬草なら俺さっき見つけたので摘んでますよ」


 キーが薬草を既に摘んでくれていたおかげでもう帰れるみたいだ。じゃあさっさと帰ってしまおう。


 誰か手を引いてくれないか、と手を引く人を募ろうとした時気づく。首から下げている冒険者の証が光っている。嫌な予感がして、アイオライトに問う。

 此処は守護魚の巡回ルートか?


「いや、違うよ。急にどうした、の……」


 振り返り、自分の冒険者の証を見た後アイオライトも腕に着けている冒険者の証を見る。それもしっかりと光っていた。


「まずいよ、早く此処から離れよう! 守護魚が此処を通る!」


 少し離れた場所で会話の輪を避けていたレイも近くに来て、焦った様子でそう言う。彼は全てがわかる。その言葉を信じるなら、この光は誤作動などではない……!


 レイの言葉を聞き、キーとルーンも気づく。それとほぼ同時に、大きな水流が巻き起こる。歪んだ視界が元に戻った時、視界に入ったのは赤だった。


 大きな口が赤色の暗闇が、皆を吞み込んだ。



 *


「起きて、ねぇアンカー起きてって!」


 不安そうなルーンの声が聞こえる。ゆさゆさと体が揺らされ、唸りながら体を起こす。


「良かった、起きてくれて……」


 彼女の顔を見れば今にも泣きだしそうで、自分が起きるまで不安に駆られていたことがわかる。ごめんねと謝りながら頭を撫でてやれば、なんでもっと早く起きてくれなかったのかと膨れる。無茶言わないでほしい。しかし、他のメンバーは居ないのだろうか。


「私、先に起きたから周りを見てたんだけど居なかったよ」


 居ないのか。それは困った。此処が何処なのかも知る必要があるが、それよりも皆と合流するのが大切そうだ。


 立ち上がり、ルーンと共に歩く。足をつけている地は、水の中だということを差し引いてもなんだかぬらぬらしている気がして気持ち悪い。此処は何処なのだろうか。危険度がわからないのは恐ろしい。


「多分、守護魚の体内なんじゃないかな。意識を失う前に見たあれは守護魚の口なんだと思う」


 なるほど、確かに守護魚が近づいてきていたようだしそう考えるのは理にかなっている。じゃあ、守護魚の体内に入ったことがある話はあるのか?


「いや、流石にないかな。聞いたことがないから……不安だなぁ」


 また眉を下げて不安そうにメイスを握る。幸いなのはお互いに武器があることだろうか。


 そして、それは本当に幸運なことだったと知る。

 さっきの場所が安全だっただけで、多いのだ。ひも状の謎の生物が噛み付いてこようとしてくるから、それを切り伏せたり叩きのめさないと進んでいられない。最初は無視して躱していたが、ルーンが一度魚の部分を嚙まれたときそのまま食いちぎり体の中に潜ろうとしてきたのだ。


 二人で悲鳴を上げながら引っこ抜いて跡形も無いくらい微塵にしたが、それを見て以来あのひょろひょろとした生物が恐ろしく見える。あのまま侵入を許していたらどうなっていたのか。恐ろしい。怪我は取り敢えず治療したが、専門の知識がない止血だけのものだ。謎の生物からの攻撃だから、早く安全な場所に行って様子を見たいのに未だ仲間も出口も見つからない。


 謎生物も少なくなってきたしそろそろ休憩しようか、と腰を下ろした瞬間、遠くから悲鳴が聞こえた。


「あの声はキーだよ! 早く行こう!」


 跳ねるように立ち上がり、急いで向かう。遠くからキーがじたばたしているのが見えた。


「どうしたのキー!」

「あ、る、ルーンとアンカー。助けてくれっ、なんか、何かが足に」


 手で引っ張っているものの先を見れば、それは足に突き刺さった例の生物だった。他と違うとすればそれはビックリするほど大きいところだろうか。これは一人じゃ抜けない。三人で頑張って引っ張り、ようやくずるずると抜けてきた。


「うぐぇぇ……」


 キーが痛そうに、そして気持ち悪そうに呻く。頑張って、後少しだと応援しながら抜く。完全に抜けた後、その生物は混乱したのか自分のヘルメットに激突してくる。ビックリした。勘弁してほしい。その隙を突きルーンが横からそれをぶん殴り、地面でのたうち回る生物を自分が片手剣で突き刺しトドメを刺す。

 びくびくと震え、やがて動かなくなったのを確認してから剣を抜く。


「キー! 今止血するからね」

「本当にすまない……」


 いいんだよ、動かないでねと二人で励ましながら急いで止血する。治療が終われば、キーは安心したように笑ってくれた。


「すまん」


 謝るより先に言うべきことがあるはずだ。


「そうだよ! あーりー……?」

「がとう、だな。二人が居なかったらどうなっていたのか、考えたくないな」


 そう苦笑されるが、本当にそうだ。

 これは魚なのだろうか。それとも別の何か? キーもわからないらしく肩をすくめる。


「取り敢えず、残りの二人も探そう。休憩は要らない」

「えー? 心配だよ」


 でも、俺のようになっていたら大変だろ。そうキーは言う。確かにその通りだ、それなら進むしかないだろう。

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