第13話「探し物の達人」
皆で手分けして依頼品を探す。失くしたものは母の形見のペンダントだそうだ。それは意地でも見つけてあげたい。お金も必要だが、人の助けになることは率先してやってあげたくなる。
しかしこの辺りには無さそうだ。場所を変えようとふと顔を上げると、レイが洞窟の中に入ろうとしていた。様子を見るに気づいていないわけではなく意思を持って入ろうとしている。近づいて、肩を叩く。そっちはダンジョンだから危ないよ。
「うん、知ってる。でも依頼の物は此処にあるから行かないと」
何故それがわかるのだろう。しかし彼が言うならそうなのだろうという、うっすらとした確信がある。どうやらレイは本人が言っていないことまで知っているようだから、ここの誰もが知らないことを知っていても驚きはしない。しかし一人で行くのは危ない。皆に伝えて一緒に行くべきだ。そう伝えると、レイは嫌そうな顔をした。
「キミの頼みとはいえ、それは嫌かな。だってどうせ皆信じてくれないよ」
そう言われてしまうと、正直それを否定する要素が無くて困ってしまう。いくら普通なら知らないことを言い当てたって、偶然だ勘だと言われてしまえば否定できない。知識や情報は目に見えないから。それでも自分は彼を信じたく思う。嫌いでもない。だから傷ついてほしくないのだ。こんな正体不明の人間に付き合ってくれているのだから。
「でも心配してくれたのは嬉しいな。それに一人だとボクも心細いし。だから」
レイが自分の手を両手で包むように握る。
「二人で探しに行こうよ、そうしよう」
ぐい、と手を引っ張られる。ちょっと待ってと言っても聞いてくれない。やはり彼は強引だ。そして手はやはり男性のそれでごつくて、魚人という泳ぎ生活するのに特化した身体だから力は強くて。人間という、良くも悪くも平均的で地上の生活に特化している生物は引き摺られる他ないのだった。
*
ずるずると、結局二人だけでダンジョン内まで来てしまった。ランタンがあるから視界に関しては問題無いが、レイはそのランタンすら点けずにずんずんと進んでいく。一体何処に行こうとしているのか、怖くなって尋ねてみる。
「依頼人を襲った肉食魚の住処。アイツは輝くものが好きだから持って行ったんだよ」
やはりそれなら皆と一緒に来た方がいいと思う。引き返そうと提案しても彼は弱いし一匹しか居ないから大丈夫と頑なに拒否する。仕方ない、それならこれを聞くしかないか。
どうしてそれがわかるのか。今までだってそうだ、教えてないことも知っていた。それはどうして?
そう問えば、レイは足を止め逡巡したような様子を見せる。その後、おずおずとこう聞き返した。
「気味悪がったりしない? 意味わかんないって突き放したり、しない?」
するわけがない。そんな酷いことはしない。例え理解が及ばない話だったとして、突き放すものか。だって命の恩人で、自分を好意的に思ってくれているのだ。もしそれをしたなら愚か者でしかない。
「そ、っか。それならいい。話すよ。意味わからないとは思うけど」
そんな自虐的にならないで。そう伝えると彼に笑顔が戻った。良かった。
ゆっくりと奥へと歩みを進めながら、レイは語る。
何故自分なのか、そこはわからない。でも何故か自分は生まれながらにして全て解ってしまうと。その上魔法も使えたものだからもう大変。周りの大人たちは彼に多大な期待を最初は寄せていた。だから彼はその全てに応えた。その内、皆自分のことを気味悪がって避けた。
それを聞いて、自分は大いに憤慨した。勝手に期待して、それに応えてくれたのに気味悪がるなんて。なんて酷いんだと。でも、レイはそこは大して重要じゃないと言った。
「そりゃ傷ついたよ。今でも意味がわからないって突き放されるのは嫌だ。でもボクがここまでひねくれたのはこれが理由じゃない」
溜息をついてから、また語りだす。
自分は全て解っている。それは驕りではない。未来がわかっていた。知らない人の名前も、秘密も知っている。知りたいな、そう思った瞬間情報が頭の中に入ってくるのだ。これから何が起こるのか、その人が何をしたのか。全て。それを理解した日、ちょっとした好奇心が芽生えた。……それが全ての間違いだったと、レイは目を伏せる。
第零都市。大昔に栄え、とある大魔法使いの暴走で壊滅し今や危険な遺跡と化した場所。そこが滅びた理由を知ろうとした。その結果としては成功したそうだ。
だが、その真相は教えてくれなかった。
「まぁ、そうやって全部知れるボクが何もわからなかったのがキミってわけ」
そうはにかむ。彼的には全部知ってつまらない中に現れた救世主なのだろうが、自分は自分がもっとよくわからなくなった。
ふと、レイはしゃがみこんで砂を掘り出す。此処に依頼品は隠されているらしい。肉食魚が来ない内に掘り返した方がいいので、自分も砂を掘るのに参加する。そうやって砂を二人で掘り返していると、レイが笑いだす。
「なんだかこうしているとデートみたいだね?」
そうだろうか。よくわからない。首を傾げればそこは嘘でもそうだねって言ってよ、と膨れてしまった。でも砂掘り返してるだけだしなぁ。
暫く砂を掘っていれば、宝石があしらわれたブローチが出てきた。砂を払ってそれを拾う。形も色も依頼文通りの物だ。鞄の中にしまい、さっき通った道を辿る。出入り口まで来れば、他の皆にバレないようにそっと出る。
「付き合わせて悪かったね、見つけた手柄は譲るよ」
レイはそう耳打ちしてきた。それならありがたく手柄は貰っておこう。
依頼品を高く掲げて、皆に声をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます