第12話「交通事故」

 自分は何も見えないが、恐らくアイオライト先導の元泳いでいく。静かで暗い海の中で、自分達の声だけが響く。


「それで、さっき何を話してたんですか?」

「それ聞くの? 雰囲気的に触れちゃいけなさそうとか思わないの?」

「え? そうかな……?」


 見えなくても、ルーンが今首を傾げていることくらいはわかる。そしてレイが冷たい目を送っているであろうことも何となく察せる。もっとも、見えていたとしてルーンはそんなこと全く気にしないのだろうが。


「あー、さっきのね。話すって言ったしいいよ、話すよ」

「やったー!」

「実は都市の外に出るのが久々、いや、ちゃんと出たのは今回が初めてだって話をしていたんだよ」

「つまり……?」


 本当に何もわかっていなさそうな声を出す。マジか、まだわからないのか。えぇ……という声が左から聞こえた。声的にキーが引いてるな。わかるよ、その気持ち。


「実は冒険に出たことないってこと」

「えーーー!?」


 驚きのあまりルーンが自分と繋いでいる手を離す。待ってほしい、手を離さないでほしい。怖い。手を掴みたくて近くの水を掻けば、ごめんと言いながら手を掴んでくれる。すぐ掴んでくれるのは嬉しい。そもそも離さないでほしいが。


「騙すような形になってしまってすまなかった。悪気はなかったんだけどね」

「でもでも、色々教えてもらえてほんとに助かりましたよ! 経験はこれから私達と積んでいきましょう!」

「そう言ってもらえると嬉しいな。ありがとう」


 経験が無くとも、彼の知識には助けられた。ルーンはちゃんとそれを理解しているようで彼をフォローする。心なしか、アイオライトの声から緊張が抜けたような気がする。この中で一番彼に期待を寄せていたのが彼女だったから、アイオライトなりにルーンに伝えるのはあまり気乗りしなかったのだろう。


 その後二人は親が冒険者だからと冒険知識の交換をしていたが、ふとルーンが疑問の声を上げる。


「アイオライトさんはなんで都市の外に出なかったんですか?」

「一度小さい頃に出ようとしたんだよ。ただかなり幼かったし冒険者登録もしていなかったから、一人で外出証を貰えなくてさ。門番の目を盗んで出たんだよ」

「それでそれで?」

「アンカー君以外の皆は知ってるよね、第四都市に行く時と出る時の外出証は守護魚が近くに居ると光るってこと」


 へぇ、そんな機能があるのか。第四都市の周囲は凄いスピードで守護魚が回遊しているようだし、納得の機能だ。


「それで、冒険者の証にも同じ機能があるんだよ。でも僕はどっちも持たず、持ってる人の同行も無かった。だから……」

「だから?」

「出た瞬間守護魚にはねられたんだよね」


 笑いながらそう言ってるが、怖い。絶対痛いじゃ済まなかったと思う。右からひぇぇ……と怯える声が聞こえる。本当にそんな気持ちだ。


「ちなみに全身の骨を折ったよ」


 本当に怖い。なんでダンジョン前にまだ着いていないのにこんな怖い思いをしなければならないのか。


「そう考えると、私達が第四都市に来た時って大分危なかったんだね……」


 本当だよ。何故キーとレイの頭良さそうな二人をもってしてあんなことをしてしまったのか今なら疑問だ。まぁ結局のところ、子供の想像力には限界があるという話なのだろう。


「さ、もうそろそろダンジョン前だよ。ランタンを点けて探していこうか」


 皆でランタンを点け、離れすぎない程度にだが単独行動を開始する。あぁ、今から帰る時が怖い……。

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