第11話「騙された?」
他愛ない会話をしながら外出証を貰い、いよいよ上に泳げば第四都市を出れるというところでアイオライトの足が止まる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。君達ほんとに怖くないの? ホントに?」
何処か困惑とも取れる問いかけをされる。その答えはノーだ、だから首を横に振る。他三人も同じなようだ。困惑というより困ったようなアイオライトを見て首を傾げていれば、レイが何かを感じ取ったように上を向く。つられて上を見たその瞬間、圧倒的な水流で吹き飛ばされそうになるのを顔を青くしたアイオライトが掴んで止めてくれた。
「大丈夫か!?」
何とか、大丈夫。しかし、今のはなんだったのだろう。嵐が過ぎ去ったようにまた静かになった出口を見る。
「へー、あれが噂に聞く第四都市の守護魚……!」
「といっても、速すぎて何も見えなかったけどな」
守護魚。そういえば第四都市に来る時、皆近くになると急いでいた。もしや守護魚とやらがこうして回遊しているからだろうか?
「そうだよ! ほとんどの都市の守護魚は都市からそう遠くない場所でじっとしてるんだけどね、第四都市だけは違うんだよ。あ、守護魚っていうのは魚神様の化身って言われてるでっかい魚のことだよ」
魚神様の化身。実際にその通りかはともかくとして、通りであんなにパワフルなわけだ。アイオライトに腕を捕まれてなければ壁に叩きつけられていたところだった。
「ほんと、他の都市みたいにじっとしててほしいよ」
アイオライトが、ふと悪態をついたものだからびっくりしてそちらを見る。人なのだから、悪態の一つや二つつくだろうがよりにもよって守護魚に対してつくとは。まぁ、確かに外に出た時に来られたらはねられて大怪我しそうだ。そう考えると普段は邪魔かもしれない。とはいえ、自分達の主神とも呼べる神の化身を悪く言うものではないと思うが。
そんなことを考えていれば、レイがニヤニヤしながらアイオライトに近づく。……嫌な予感がする。
「アイオライトさん? ボクわかっちゃったよ」
「……何がだい?」
守護魚についてで盛り上がっていたルーンとキーも不穏な気配を感じ取ったのかこちらを見る。俯いていたアイオライトは、笑顔を引きつらせながらも顔を上げる。ずい、と更に体を近づけてレイは言う。
「わかってるよ、知ったよボクは。怖いんでしょ、守護魚が」
「そんなわけ」
「あるね。キミは一度守護魚に怪我させられたことがある。その時は一人で都市から出ようとした。合ってるでしょ?」
「な、なんで知って」
「だから怖い。だからそれ以来――」
レイの肩を掴んでアイオライトから引き剝がす。それ以上はいけない。それ以上は、ダメだ。ふと思い出す、あの時聞いた言葉を。
「あの野郎ろくに冒険なんかしたことがない癖に、一丁前に冒険者とか名乗りやがって」
きっと、彼はそれ以来都市の外に出たことがない。しかしそれをバカにする権利は誰にも無いはずだ。他人の恐怖を、笑い者にするのはいけない。
「アンカー、なんで止めるの? だってコイツはボク達を騙そうとしたんだよ?」
意図は伝わったようで、自分にだけ聞こえるように言葉を発するレイ。騙そうとした。確かにそのつもりがあるかないかに問わず、結果的にはそうなっていた。自分達は彼を先輩冒険者だと思っていた。しかし、本当は経験は全然無い新人同然だった。でもそこにきっと悪意は無く、善意から協力してくれていたはずだ。それに、彼の人柄的に出れないなりにやっていたことがあるように思える。それが知識をつけることだったのだろう。そして、自分達はそれに助けられた。ならば騙そうとした、なんて悪意を持った表現はやめるべきだ。
「アンカーがそう言うなら……。……ごめんなさい、アイオライトさん」
「いや、いいんだ。君の言うことは正しいからね」
渋々だが、レイは謝ってくれた。アイオライトの器が広くて良かったととても思う。
「えーっと……何の話をしていたの?」
ルーンはよくわかっていないようで首を傾げている。キーは何となく察したようで、察せていないルーンを嘘だろと言いたげに見ている。自分も嘘だろって思う、ちゃんと話聞いてた? まぁ、聞かれていない方がアイオライト的にはいいのかもしれないが。
「まぁ、何の話をしていたかは道中話すよ。……早く行こう」
と、アイオライトが提案する。無理に行かなくても、そして話さなくてもいいのに。何故? 不思議そうにしていれば、自分にだけ小声で教えてくれた。
「いくら君達がしっかりしているとはいえ、子供達だけで都市の外に行かせるわけにはいかない。それが大人として、そして導いた者の責務だろう?」
お外が怖いとか言ってらんないよ、と笑っている。やはり彼は善い人だ。そんな人の緊張が、結果的に解れたのなら良かった。さぁ、外へ出よう。アイオライトが先に上へと泳ぎ、自分達もそれについて行く。今回はルーンが自分の手を引き、案内してくれる。
ワクワクと緊張、そして闇に目を取られていた自分達は気づかなかった。こちらをじっと見つめる大きな双眸があることに。
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