第10話「新人冒険者」
装備を揃えた皆で、また冒険者ギルドへと戻ることにした。
「まずは受付さんに冒険者登録をしたい旨を伝えよう。そしたら書類をくれるから、名前と住所を書いて渡すんだ」
「子供でも大丈夫なんですか?」
「問題ないよ、冒険者に年齢は関係ないからね」
キーとアイオライトは手続きについての話をしている。事前に疑問点を潰すキーは真面目だなぁと思いながら後ろをついて行く。
「後……アンカーは住所無いんですけど……」
あっ。つい声が出る。名前と住所書けば終わりかー結構簡単なんだなーと思っている場合じゃなかった。そうだ、自分には住所が無い。そもそも名前ですら正しいのか、証明するものは何も無い。まさか自分だけお留守番? それは嫌だなぁ……。
「あぁ、大丈夫。この名前と住所は死んだときの通知に使うものだから」
しれっと言うアイオライト。レイ以外の子供達は、自分も含めて表情が凍る。そうだ、冒険譚は楽しいが現実はそうじゃない。いや、もしかすると冒険譚の主人公は楽しくなかったかもしれない。討伐に行った人達が皆帰ってこない。言葉にすれば簡単だ。しかしその皆にも名前があって、生活がある。家族が居る者だってきっと少なくない。
自分達は、そんな怖い道に考えなしに突っ込もうとしていたのだ。
「何、皆。怖くなったの?」
今更? と言いたげにレイがアイオライト以外の顔を順々に見て行く。そして溜息をつき、まぁ人が減ったら困るしと呟いて一人一人に声をかけていく。
「ルーン。キミは地上に出たいんだろ? しかし地上は楽園ではない。地上にだって危険な生き物が生息する場所はある。それなら早い内に予行練習しといていいんじゃないかな」
「た、確かに!」
「キー。キミはアーティファクトとかの研究家になりたいんだろ。でもキミは家を継がなきゃならない。現場を見れるのは今だけじゃない?」
「それもそう、だな。……お前にアーティファクトの研究家になりたいって言ったっけ?」
「アンカー。残念だけど地上への道は今や遺跡と化している。安全な道なんて無い。帰るにしても鍛えないと無事ではいられないと思う。でも安心して、ボクがついてる」
手を笑顔でぎゅっと握られる。へたっぴな笑顔だが、何故か少し心が落ち着く。この人と居れば大丈夫だという感情を抱くべきは大人のアイオライトなのだろうが、レイにそれを覚える。助けてくれた実績があるからか、こうして手を握ってくれたからかはわからない。それでも落ち着ききれないのは、ここまで寄り添ってくれる理由に理解が及ばないからだろう。
「大丈夫かい、子供達。怖いならやめた方が」
「いえ! 大丈夫! です!」
元気よくルーンが返事をする。キーも疑問を置いておくことにしたようで頷く。自分も首を縦に振る。
「そうかい……。じゃあ、僕は此処で待ってるから書類を書いておいで」
と、冒険者ギルドの扉を開けて入り口付近の壁に寄りかかかる。わからないところがあったら聞きに来てね、とも付け加えてくれた。
「受付に聞くからいいです」
レイは何故か彼を敵視しているようだが。こら、あっかんべーをするんじゃない。アイオライトは笑ってるからまだ良かったけど。
受付に声をかければ、全身を一通り見られた後冒険者登録かと聞かれた。凄いな、冒険者全員を把握しているのかと感心していればルーンから冒険者には冒険者とわかるように証を渡されるんだよと言われた。ちょっと恥ずかしい。
書類を渡された後はスムーズだった。取り敢えず住所はルーンの家のものを使わせてもらうことにして、それを渡してしまえば人数分の糸を通されたメダルのようなものを渡される。これが冒険者の証らしい。取り敢えず首から下げておく。終わったことを教えようと入り口の方を見ればアイオライトは居なかった。何処に行ったんだろうと周りを見渡せば、掲示板の前に居た。
「あぁ、終わったのかい。うん、似合ってるよ」
よく見れば、アイオライトのブレスレットに冒険者の証が着いていた。ただのオシャレではなかったらしい。
「何をしていたんですか?」
「君達に合う依頼を見繕ってあげようと思ってね。これとかオススメだよ」
キーが聞けば、一つの依頼書を掲示板から取る。
「シナンディシダンジョン周辺で薬草を探す途中で肉食魚に襲われ、逃げる時に落し物をしてしまいました。母の形見なので見つけてください。薬草も摘んできた人には追加報酬……」
ルーンが内容を音読する。確かに、ダンジョン内には入らないし入門には最適かもしれない。肉食魚の強さが気になるところだが、アイオライトが選んでくれたものだしそこまでではないのだろう。
「皆はこれでいいかい?」
「大丈夫です」
キーが大丈夫だと言えば、レイと自分は頷く。ルーンは行く気満々だし聞くまでもないだろう。
「じゃ、受付にこの依頼書を渡してから行こうね」
まぁこれは僕がやっておくよ、と言われ自分達は先に外に出ることにした。掲示板の前に居座るのは迷惑だろうし。
アイオライトが冒険者ギルドから出てきた時、誰かの唾を飲む音が聞こえた。そうだ、これから冒険者としての初仕事が始まるんだ。緊張はする。それでも何かは得られる、そんな確信があった。
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