第2話 夏休みの終わりに



(今日のお弁当は、頑張った!早く高月君に食べてほしいな。ふわふわに包めた玉子焼きに、足の長さ違っちゃったけどタコさんウィンナーに……あ!)


中濱なかはまさんおはよ。どうしたの?お弁当を膝に乗せて」


「にひひー。まあまあ、座りたまえ高月君」


「あの、そんなに高速で椅子を叩かなくても……」


「くるしゅーない!わらわの隣が嫌だともうす申すのか?」


「あはは!滅相もござりませぬ。では、姫様。失礼つかまつります」


「か、カッコいい!はぅはぅはぅはぅ!」


「中濱さん近い!近いです!」


「……くぅ~ん、きゅんきゅん……」


「そんな切なそうな表情しないでぇ!じ、実は嬉しかった……です」


「はぅはぅはぅはぅ!うにゃー!」


「堂々巡りだよ!あっうそ、何で嚙もうとするの?!引っ掻くの?!く、くすぐったいってば!」





「今日もお弁当作ってもらっちゃってごめんね、いつも本当にありがとう!」


「私が好きで作ってるんだから、いいのです!にひひー。今日のお弁当、自信作なんだ!」


(むふー。海でお弁当を食べた高月君が、『いつもお弁当、ありがとう。今日のは特に美味しいよ!中濱さんをお嫁さんにする人は幸せだよね(ちらっちらっ)』とか言われちゃったらどーしよ……)


「ほ?……何でほっぺたツンってするの?!しーっ、て何で?……あああ、また?!き、記憶を……!あー、手を掴んじゃダメなの!ふにゅううううぅぅぅっ!」


「揺さぶり禁止、くっ……あの、さ!真横に座ってれば……聞こえちゃうよね?!い、以外に力強い……!」


「そこを何とか!そこを何とかぁ!」


「あっ……うそ、捕まったー」


「捕まえたぁ!揺さぶるよ?うやあー!あ!でもでも中濱さんの事は忘れないでね!忘れたら怒るよ!めちゃめちゃ怒るよ?!やだやだ、ひどいよぉ!」


「う。僕が、現在、進行形で、ひどい、目に、あってー」


【ピンポーン。仲良しのお二人様、仲良しのお二人様。本日もバスの車内では、お静かに願います。】


「「は、はい!ごめんなさいいぃぃ!」」


「な、仲良しぃ?えへへ!でも、優しい運転手さんごめんなさい!そしてまた高月君に乙女の秘密を……」


(私……高月君の事、『好き』じゃなくて、こんなに大好きだったんだ……)





「おおお!海!海だよ、高月君!」


「天気いいし、よかったね!レジャーシート持ってきたから、あの海の家でビーチパラソル借りよっか。ワクワクしてきたね!」


「うん!私も!」


(私と一緒だから、とかウソでもいいから言ってくれないかなぁ……)





「じゃっじゃーん!今日のお弁当、自信あり!ほっぺた、落とさないでね!見たい?見たいー?」


「えっ、さっき着いたばっかり……あっ、わかったから唇尖らせないで?!……朝から動き回ったから、小腹空いてきたー、お腹鳴っちゃうかも。お弁当食べる?」


「え?高月君、早くない?まだ朝の10時だよ?……ひあ!ほっへらのいはうおほっぺた伸びちゃうよ?!のいる伸びるー!|のいはうー!!」


「まったく、もう……!まあでも食べちゃって、後でお腹が空いたら海の家で軽くとかもいいよね、今食べる?お弁当を楽しみにして、朝ご飯食べてないんだ」


「食べる!私もお弁当作ってて食べてなかったの」


「おー!今日も美味しそうなお弁当!ありがとう!」


「私の料理の勉強に付き合わせちゃってごめんね?いただきます!今日はですね。タコさんウインナーでミニトマトを包み込んでぇ」


「ミニトマトがタコに襲われてるように見えるよ?!」


「にひひー。驚いた?」


「何かミニトマトを応援したい……あ、これも美味しい」


「やったぁ!」


(もしかして!周りから見たら、高月君の彼女に見られてたりするのかな……!)





「ね!足だけ海に入ろ!きっと冷たくて気持ちーよ!」


「そだね、行ってみよっか!」


「じゃあ競争!よーい、どっ?!あつーい!砂ぁ!!」


「中濱さん!スタートした瞬間に転んでる?!もうほら、手を掴んでー、よいしょ!うわ、砂だら……え?!ちょっと待っ……!」


「お覚悟ぉ!人を呪わば穴二つぅ!」


「死なばもろともだよね?!それ二人ともコケ、あ!」


「えやあー!どーだぁ、あああぁ?!」


「「ぶふぅ!あっつー!!」」


(抱きついちゃった!やったぁ!嬉しい!やったぁ!)





(きれいな夕陽。でも、もう……こんな時間。もう少ししたら帰らなきゃ。もっと一緒にいたいよ……時間、全然足りないよ)


「パラソル返してきたよ。うわー……夕陽、綺麗だね」


「……ね!座って一緒に見ようよ!」


「うん」


(手、つなぎたい。でもでも、嫌がられたら)


「いっぱい遊んだねー。日焼け止め使ったのにヒリヒリしてる。中濱さんは痛くない?大丈夫?」


「日焼け止めとUVカットは乙女の夏の基本だよ!SPFとPAがすっごいの、お母さんから借りてきたのだ!」


「わからないけど、何かスゴそうだね……」


(好きって……好き、って言ったらどんな……でも、断られたらきっともうこんな風に一緒にいれなくなっちゃう。やだよ……やだよぅ!)


「楽しい時間って、あっという間だね。……中濱さん大丈夫?疲れちゃった?」


「ううん!今日一日楽しかったなぁって」


(ずっと話しかけてたら、もっと一緒にいれるかな。お話ししたいの。横にいたいの。もう少しだけ……)


「そっか、だったらいいけど……時間的に、もうそろそろ帰らないと、だね」


「!……だね!いっぱい遊んだー!また、その、機会があったら来ようよ!みんなと一緒で……たまに二人でも!」


「……そう、だね」


(えっ……あんまりって感じっぽい?もしかして、楽しかったのって私だけ?一人ではしゃいで騒いで、迷惑に思われた?……泣きそう。ダメ……まだ泣いちゃダメ!)


「あの、さ。中濱さん」


「はーい!中濱明里でーす!……どしたの?高月君、疲れちゃったなら早く……帰ろ?今日は楽しかったー!」


(……泣きたくなるような事、言っちゃヤダ。せめて、せめて……まだ片想いで、いさせてほしいよ)


「……中濱さん」


「は、い……」


「好きです」


「……えっ?」





「去年席が隣同士になって、その時から好きでした。

この夏休みでもっと、好きになった」


「も!もう!か、からかってるんでしょ?!私はいつも騒がしくてだだ漏れで、女の子っぽくない中濱さんだよ?」


「今日、告白しようって思ってた。本気です」


「そんな事言ったら、私、本気にするよ?本気にしちゃうよ?!『ちょっと待って、やっぱりなし』は、だめなんだから!じゅーう、きゅーう、はーち」


「ゼロ」


「……!!」


「振られる覚悟で、告白、してます。返事はいつでもいいから、気持ちをいつか……あ、な、泣かないで!そんなに嫌だった、え?私の方が先に好き?……手を繋ぎたい?嬉しい!嬉しい!その前に、はい、ちーん、しよっか」


「えぐ、ぐす、ぐす…………ちーん!」


「うわ!めちゃめちゃ可愛……こ、こほん。とりあえず、時間も時間だし帰ろっか。て、手……つなぎながら!帰り道、たくさんいろいろな話しようよ!」


「あ、てて、手ぇですねっ!ふちゅちゅかもにょにょ右手でしがっ?!……右手と私っ!よろしくお願いします!」


不束者ふつつかものの高月秋良ですが……ずっとずっと!よろしくお願いします!」


「はいっ!!!」


(ウソ、ウソ!夢みたい!両想いだったんだ!夢じゃないよね?冗談じゃないよね?!高月君と手、つないでる!嬉しい!嬉しい!嬉しいっ!)


「あ!一緒に、ちーん、しよっか。僕も嬉しすぎて……」


「はいっ!!!」


「「ちーん!!」」

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