第11話 共同プロジェクト
共同プロジェクト
正樹君が学校に行くことになってから、2人の待ち合わせが青葉書店で行われることは少なくなった。
『最近、俺たち学校が終わると直接待ち合わせして遊びに行くんだ』
この前、賢治君が訪ねて来てそう言っていた。
それを聞いた時、ほんのちょっぴり寂しい気持ちになった。
賢治君は私の表情からそれを察して『玉川上水魚協くみあいの本拠地は青葉書店なのは変わりないよ。それに、
そして賢治君の話だと『玉川上水魚協くみあい』に新たにくみあい員がひとり加わったそうだ。
その名前は『
賢治君のLINEの相手だ。
彼女の集中的な治療期間は終わり、今は復学の為の準備をしている。
体調も無理をしなければ少しは外出もできるらしい。
それと若洲海浜公園の釣り大会後に正樹君もLINEに加わったそうだ。
今は3人で連絡を取り合っているという。
彼女の体調さえよければ、春の暖かい日にでも、彼女の家の近くの海岸で会おうと3人は約束を交わしたのだ。
私は心の中で『そうだ!!』と叫んだ。
「ねぇ、賢治君、私のお願いを聞いてくれないかな? その上で正樹君や彩翔ちゃんにも手伝ってほしい事があるんだ」
私は賢治君と翔君(彩翔ちゃん)の話を聞いたときにひらめいた物語を今こそ執筆する時が来たのだと思った。
それにはまずこの物語を執筆する許可を賢治君からもらう必要があった。
私の提案に賢治君は『書いてもらえるなんて光栄だよ』と言ってくれた。
さっそく正樹君と静岡の彩翔ちゃんに連絡を取ると、『玉川上水魚協くみあい』と『青葉書店』の共同プロジェクトが動き始めた。
計画は、まず私が考えた大まかなストーリーに3人が海の魚のキャラクターを当てはめ、それに基づいて、さらに私がストーリーを膨らませていくという手法をとることにした。
日時を決めると、場所は青葉書店の作業スペース、彩翔ちゃんは静岡の自宅からリモートで参加してもらうことにした。
****
『さぁ、プロジェクト会議を始めよう』
賢治君の掛け声でいよいよ始まった。
実は賢治君でさえ彩翔ちゃんと顔を合わせて会話するのは初めてらしいのだ。
私たちは緊張する。
「 ....」
「こんにちは..
PCに映る彼女は黒髪ショートカットの女の子で学校の制服を着ていた。
ブレザーに赤いひもリボンに襟元には菱形の校章が付いていた。
彼女の顔を見て正樹君は顔を赤くしていた。
「髪、切ったんだね」
賢治君が言う。
「うん。賢治君が見た写真は昔の私だから。治療するといろいろと....ね、 変?」
「変じゃないよ! 可愛い..というか似合ってる..」
正樹君がつい本音を漏らしてしまう。
「ありがとう。正樹君」
そう、彼女は例えるなら海の見える野に咲く白い花のような少女だ。
部屋で過ごしてきたであろう白い肌が、そう思わせたのかもしれない。
それでも、彼女は今を生きようとする力強さに満ち溢れているように思えた。
彼女の制服姿。
『見て! ほら、これ私の学校の制服なんだよ』
近々復学する喜びに自分の姿を2人に見てほしかったのだろう。
彼女の笑顔は輝いている。
・・・・・・
・・
3人は図鑑を見ながら、あれやこれやとストーリーに合う魚の名前を出し合い論議をしていた。時々、聞いた事がない魚の名前がでたが、大概、その魚は却下された。
彩翔ちゃんの提案で極力みんながすぐに想像できる魚にしようという事になったのだ。
『だって童話だもん』と彩翔ちゃんが言うのだ。
主役級の魚と脇を固める魚の候補が出そろった。
後は私が物語を膨らませるだけだ。
完成した物語は秘密だ。
発表の日、つまりみんなが海辺で会う日までのお楽しみとした。
私はイメージを膨らませて物語を一気に書き上げる。
今回、挿入するイラストは色鉛筆で書いたアナログ的な雰囲気にした。
そして原稿と挿絵のデータを『シロツメクサの花』を製本してくれた夏目製本所へ持ち寄り、待つこと4週間。
2月中旬、出来上がった本が届いた。
深みのある藍色の表紙、その皮の手触りは何て心地よいのだろう。
砂浜に打ち寄せる波のような模様が施されている。
その砂浜に何か書かれている.. smile chocolate
そう、それがこの物語のタイトルだ。
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