第9話 ぼっちん襲来!
翔君からの返信があったのは翌日の昼すぎだった。
「賢治君の言う通りです。ごめんなさい。私も賢治君と同じでただ話し相手がほしかった。だから男にしていました。私は、学校には行っていないんです。今ね、病気の治療中なんです。治療によっては、後に後遺症が出て辛い時があって.. 昨夜もあの後、辛くなっちゃって。ごめんなさい。 あのね、賢治君、私、わかっているから。大丈夫だよ。 ただね、今、免疫が下がっちゃって、もしも賢治君が来てくれても会えないの.. それにあまり見られたくない姿だから、わかってね。いつか私が元気になれたら会いたいね。 私の本当の名前は
賢治君は何もわかっていなかった自分を恥じた。
その後も賢治君と彩翔ちゃんは友達として交流を続けた。
彼女はまた元の生活に戻るために、もう一度学校に行くために頑張っていた。
賢治君は面白い事やハプニング、腹立つことや笑えることを彩翔ちゃんに伝えたくて、いつの間にか、それらを学校で探すようになっていた。
それは、病気を治そうとする彼女の前向きな希望が、賢治君に影響したのだ。
そして、今や、自分の顔が外国人のような顔であっても、悪戯に使えるほどに心が柔らかくなっているのだ。
とにかく、賢治君は楽しい事を前向きに求めていく『希望』を彩翔ちゃんからもらったのだ。
その話を正樹君は黙って聞いていた。
私はというと、実は賢治君の話を聞いて、次の執筆に対する欲求がでてしまったのだ。
その後、相変わらず正樹君は学校に行ったり、さぼったりをしていたが、前とは様子が少し違っていた。それは、時々遠い目をしながら考え事をすることだった。
そして、あの日、あの事件が起きた。
いつものように青葉書店で賢治君と正樹君がミーティングをしていた。
何でも『海釣り大会&研究会』を計画してるのだそうだ。
私は心の中で『やっぱり、当然、私も参加することになっているのかなぁ..?』と思っていた。
「場所はどこにするよ、正樹」
「う~ん。東京? 若洲海浜公園かな?」
「いや、本牧ふ頭の方とかは?」
「ちょっと、遠くない?」
『あの~、ちょっといいですか?』
赤いアロハシャツを着てサングラスをした少年が入って来た。
どこかで見たことあるような..?
その少年の後ろには大人が2人ついていた。
しかも勝手に撮影をし始めた。
「あの、なんですか? ち、ちょっと勝手に撮影しないでください?」
『ここに正樹君って子がいるって聞いたんだけど』
その姿を見ると正樹君は『あっ』と声を上げた。
店のヘコミの作業スペースにいる正樹君をみつけるとサングラスの少年は『いた。いた。いくよ、いい?』と撮影隊を引連れて店の奥へ入って来た。
『やぁ、君、正樹君だよね。やってきたよ~、ぼっちんの好き勝手に生きようチャンネル!励ますぞ!日本行脚!!今日は僕を待っていてくれた正樹君にエールを届けに来ましたぁ!!』
「あ、あの.. 僕」
『いいの、いいの! 君の気持ちは全部わかっているからさ。ここが君の心をフリーにする場所なんだろ? わかるよ。僕にもそういう場所あるからさ。まずはお決まりのセリフを一緒に! いい? せーのっ!「学校何て潰れちまえ! 俺たちは自由に生きるぞー!」』
「 ....」
『ちょっと、ストップ。ストップ。 ....ねぇ、正樹君もう一回やるからちゃんと言ってくれなきゃ困るんだよな。いい?』
店の騒ぎに いろはおばあちゃんが出てきた。
「ちょっと、なんの騒ぎ?」
『ああ、ちょっと待ってね。おばあちゃんすぐ終わるから』
事情がのみ込めた賢治君が口を挟んだ。
「あんたら、Imtuberのぼっちんだろ? 青葉書店に迷惑だろ! まずは、一回外に出ろよ」
『なんだ、お前? 関係ない奴は、ちょっと口にチャックしとけっ』
「おい、正樹、お前がこんなの呼んだのか?」
「いや、あの..」
撮影隊の合図にぼっちんが声を張り上げる。
『学校は腐ってる! 学校に行く奴らはどうしようもない病的なクソ野郎だぁ!!』
「お前、今、何て言ったよ!」
賢治君がぼっちんの侮蔑的な言葉に顔を赤くした。
『さっきからうっせーな。この外人、だまってられねぇのかな』
「なっ—」
「おいっ!今、何て言ったよ! 僕の友達に! 謝れ、謝れよ!この野郎!」
『おい、おい、正樹君、どうしたんだ? 君は俺の支持者だろ? くだらない学校へ行くやつなんてくだらない奴。って手紙をくれただろ?』
「 ..くだらなくない! 人にはそれぞれ想いがあるんだ! 学校はそういう想いが集まる場所! くだらなくないよ。くだらないのはお前の方だ!」
『なんだってんだ! お前が来てくれ言うから来たんだろうが! いいか!これ動画で流したるからな!』
「ああ、流せよ、どうぞ! なぁ、正樹」
「流していいよ! そんなのどうでもいい!」
「そうだ!そうだ! 流しちゃっていいぞ!! うちの宣伝にもなるし!」
いろはおばあちゃんまで声を上げた。
騒ぎが外にも聞こえたのか、向かいの鈴木商店の鉄平さんが店にやってきた。
「おい、お前ら今な、警察呼んだぞ。今、出て行けば見逃してやる。どうする?」
・・・・・・・
・・
ぼっちん一行が店を去り、正樹君は深々と頭を下げて謝った。
正樹君が、ぼっちんがやってくる事をきいたのは3週間前の事だった。
家に呼ぶわけにもいかない。
だから青葉書店を指定したのだそうだ。
そういえば、正樹君はよく『学校はくだらない場所』と言っていた。
そういうことだったのだ。
「賢治君、ごめん」
「ああ、まぁ、俺に謝ることないよ。お前が何を思ってもお前の自由だからな」
「違うんだ。僕さ..」
「『学校はそれぞれの想いが集まる場所』いい言葉だったぜ!」
そう言うと賢治君はサムズアップしながらニカっと笑った。
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