第8話 君も嫌いだ!
平成の中頃から日本の学行には少しずつハーフの子供が多くなってきた。
それも欧米アジア系と様々だ。
日本の社会がグローバル化してきた証だ。
それらは昭和の日本に比べると、このうえなく認識は深まったと言える。
だが、それでも純真な子供とはいえ、人間が集団となると、少なからずいじめや偏見は発生することは多い。
目を伏せたくなるが、これは事実なのだ。
賢治君も小学校の高学年頃になると多感になり、その扱いに辟易しはじめていたそうだ。
今や、自分の悪戯ネタとしている英語で相手をどっきりさせることも、当時は自分の容姿による周りの反応を許容することなどできなかった。
そして彼は小学生5年生から中学1年生の春先まで不登校になっていた。
そんな彼が暇な時間を潰すはご多分に漏れず、ネットの世界、SNSだった。
誰でもよかった。
ネットならカメラを使用しなければ、外見など関係ない。
男でも女でも誰かとコミュニケーションをとっていたい。
『本音を語れたら..』などそんな事は思わない。
ただ鬱積した気持ちを紛らす程度でよかったのだ。
そして賢治君は1つ年下の男の子とサイトを通じて知り合った。
学校に行かないその男の子は『
気が合う二人はやがてLINEを使い交流を深めていった。
翔君は静岡の海沿いに住んでいた。
小さな頃から活発で、暇があれば近くの海でシュノーケルをして遊んでいたそうだ。
海の中の青い世界と揺らめく陽の光、船の音、波の音、魚が岩を齧る音、そして自分の吐いた息が透明な球体として空に向かって舞い上がる事、翔君の話に賢治君は魅了されたのだ。
とりわけ翔君は生物の話が好きだった。
賢治君は彼が時々送る海の写真を楽しんだ。
時には海から空を見上げ、水滴に反射する光の向こうに鳥が飛ぶ神秘的な写真や、夕焼けの黄金の光の道を辿る小さな帆船の写真などを送ることもあった。
賢治君は翔君との会話を楽しむため、海洋生物ガイドブックや時には水族館などに通い不登校ながらも充実した時間を過ごしたのだ。
翔君とのやり取りは楽しく、『会ってみたい』と賢治君は思い始める。
時は5月の下旬、あと2カ月も過ぎれば夏休みとなる。
もっとも不登校の賢治君には関係ないのだが、夏休みになれば、親への後ろめたい気持ちも少しだけは和らぐ。
それを利用して静岡に会いに行ってみてはどうだろうか?
そこで賢治君は考えた。
翔君をびっくりさせる仕掛けとして『英語で話しかけてみたらどうだろうか?』と。
翔君がびっくりする様をひとり想像すると楽しくて仕方がなかった。
「ごめんね。ダメなんだ」
その言葉に賢治君は忘れていた疎外感を思い出した。
自分自身を拒否された気持ちに、『どうせネットだけの上辺だけの友情ごっこ』など心にもない事を書いてしまう。
そして『お前も学校と同じだ!』と学校への不満を羅列する。
「学校、嫌いなの?」
「嫌いだね! 君も嫌いだ!」
ついつい書いてしまった。
画面に残るその文字が、『後悔の思い』を急き立てる。
何てことを書いてしまったのだろう。
そんな事より『何か書かなきゃ!』と思うが、今更、何て書けばいいのか。
悪いのは全て自分だとわかっている。
「ごめん、本心じゃない」
数分の後に送るが、翔君からは返事がなかった。
やるせない気持ちの中、翔君が送って来たたくさんの写真を眺める。
暗くした部屋で次々と写真を見ながら、その時の会話を思い出す。
次の写真を見ようと画面に触れた時、白い堤防にのびる影に眼がとまった。
それは翔君の影に違いない。
髪は長めで、体が細い。
そういえば.... と思い他の写真に写りこんだ翔君の手を見てみる。
もしかして!?
「君は女の子なの?君が合わない理由はそれなの? 俺は顔が外国人みたいなんだ。だからネットならと思いSNSを通じて.. 本当は友達が欲しかった— 」
賢治君は学校が嫌いなわけ.. いや、自分が寂しかったことを綴った。
そして、翔君との会話が楽しかったこと、会いたくなってしまったこと、傷つけてしまったことへの後悔を....
そして最後にこう書いた『君を本当の友達と思っている』
でも、翔君からの返事はなかった。
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