第7話 LINEの向こう側には—
「Hello. Nice to meet you I'm Kenji Takaba. I came here after seeing a flyer for TamakawajousuiGyokyouKumiai. Let's do various exciting things from now on! Please be nice to me in the future!」
「え? え? ええー!!」
正樹君は目を白黒させていた!
— 数刻前、それは賢治君の提案だった。
『万理望さん、あのさ、これ、俺がいつもやる悪戯なんだけどさ。正樹君にやって大丈夫かな?』
ということで、英語の文と発音はおばあちゃんが考えて少しだけ練習。
いつ正樹君が来ても良いように準備をしていた。
「ナ、ナイス、トゥ、ミーチュー.. えっと、えっと.. ヘロー」
「ぷっ! 正樹君は私並みだね!」
「え? え? どういうこと?
「ははは。ごめん、ごめん。俺、高場賢治。これでも日本人なんだぜ。ちょっと万理望さんと相談してひっかけてみたんだ。これからよろしく!」
賢治君は右手をだした。
正樹君は条件反射でそれを握ると『うん』と恥ずかしそうに返事した。
少し自分の気持ちを出せない正樹君には、もしかしたら賢治君は最適な友達になのかもしれない。
それから2人はお店の作業スペースに椅子とテーブルを置き、紅茶とスナック菓子を食べながらいろいろ話をしている。今後の計画を考える会議だそうだ。私は参加しないであくまでも2人で決めていくようにというのは、いろはおばあちゃんからのアドバイスだ。
「万理望さん、一応、決めたよ。とりあえず近々、水族館に行こうと思うんだ」
「そうなのね。いいね。いってらっしゃい」
「 ....」
「なに..?」
「おい、正樹、これって自分は行かないって事かな?」
「さぁ? 賢治君、聞いてみてよ」
「ねぇ、万理望さんも参加するんだよね??」
「え?何で私が?」
「なんだよ。万理望さん行かないのか。俺、万理望さんも行くかと思ってたのにさ」
「う~ん.. 」
賢治君が少し不貞腐れ正樹君は腕組みしながら唸っている。
これは船出に水を差してしまうことになるのかも..
「わかった。わかった。ちょっと考えておくから、いつ行くかだけ考えておいて」
「「イエーイ」」
2人はハイタッチをしている。
(やれ、やれ、これはもう行くこと決定だな....)
賢治君はスマホを取り出すと何かを打っている。
おそらくLINEか何かのようだ。
今日、賢治君は事ある度にこっそりとLINEを打っているのには気が付いていた。
****
— 土曜日、向かうは、池袋にあるムーンライト水族館。
中学生2人のお
思い返すと少々恥ずかしい。
だって、水族館なんて幼い頃に家族で行ったきりだし、それに今回は魚に詳しい2人がいるんだもの。
そりゃ~『あれは何て魚? こっちは何? 』って聞きたくなっちゃうじゃない。
水族館から出た時には私の質問攻めに正樹君は疲れた顔をしていた。
『なぁ、正樹、万理望さんを連れて来るの今度からちょっと考えようぜ』
ま、まさか、こんな事言われるとは思わなかった。
でも、なんか2人の得意分野の違いが少しわかった。
魚の知識は正樹君の方が詳しい。しかしカニやエビなどの海洋生物全般的な知識は賢治君のほうが広く網羅しているようだ。
ところで、水族館の中でも賢治君はスマホを何度か取り出して誰かと連絡しているようだった。
彼が一度だけ困り顔でスマホを見つめ、そのあと悲しそうな顔をしたのが印象に残った。
****
その後、正樹君と賢治君はこの青葉書店の作業スペースで交流を深めていった。
と言っても彼らにとって、それは遊びが中心だったけど..
チラシは未だにアクアショップ「ブルーコーナー」に貼りだしていたが、その後はずっとメールは来なかった。
「賢治君、もう会員増えないのかな?」
「う~ん。俺みたいな変わり者じゃないとメールしようとか思わないかもな」
「そっかぁ..」
「 ....」
「あのさ、賢治君、いつもLINEしてるでしょ。友達? 」
「 ..ああ、まぁね」
私の耳はディズニーの象のキャラのように大きくなった。
まさに、そこはとても興味があるところだ。
「ねぇ、その友達も海とかに興味あるの? 」
「どうかな? まぁ、俺の話はうれしそうに聞いてくれるけどね」
「じゃ、一度、ここに呼んでみたら? 」
「それは、たぶん無理だと思うよ」
「なんで? 遠いの? 」
「 ..ああ、彼女が住むのは静岡だから」
『静岡』という言葉に私の心はツンと指で突かれる思いだった..
「そうなんだ。それは残念だけど、女の子なんだね。もしかして賢治君の彼女? 」
「そんなんじゃないよ。でも大切な友達だよ。 ..大切なんだ」
「へー、本当は彼女じゃないの? いつもLINEして心だけは通じ合ってるとか。写真とかないの? ねぇ? 」
「ないよ」
「本当はあるんじゃない? 見せてよ? 」
正樹君の年頃としては当たり前の反応だろう。友達同士ならそれは不自然な会話でもない。でも、私はそこに割って入った。
「女の子だからって彼女とは限らないよね。正樹君はまだまだだねぇ。友情には性別を超えたものだってあるのだよ。ね、賢治君」
強張り始めた賢治君の頬が緩む。
「なんだよ。僕だって知ってるよ、そんなの」
今度は正樹君の頬がぷーっと膨れる。
「ははは。ところでさ、昨日、いろはおばあちゃんがスイーツダイヤモンドのケーキ買ってきてくれたんだけど—」
「万理望さん、ありがとう。彼女はさ、難病を持っているんだ.. だけど凄く勇気がある。そして俺にもその勇気を分けてくれた。だからごめんな、正樹。勝手に写真は見せられないんだ」
それは私も予想していなかった告白だった。
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