第7話
『なまくら刀殺人事件』
「あっ、思い出した。そういや昨日、二十一時頃この部屋に来て、今日のスケジュールの確認をオーナーにしに来たんだった。
最近ついつい、物忘れが激しくて……、ハハハハ」
木下が笑う。
「はっ、はあ……。で、その時、オーナーは生きてらしたんすか?」と坂田。
「ええ、ピンピン生きておられました」
木下は、気さくに答える。
翼は、黙って話を聞いた後、こう考える。
(この状況で引っかかるのは次の三点。
まずなぜ、リビングにあるなまくら刀が使われたのか……。
次に、刀を抜くと、返り血で自分が汚れてしまうのに、体からわざわざ刀が抜かれていた事。
そして、飛び散った血が、ドアの上の小さな窓まで飛んでいる事)
木下、花森、福住、亀井の四人を見ながら、更に、
(今までの言動で、犯人はあの人の可能性が高いが、一体どうやって……)と、犯人を見る。
そう翼が考えていると、坂田が、
「フフフフ」
突然笑いだし、
「分かりましたよ、犯人が」
「何?」
坂田の発言に、皆が驚く。
(まずい、たったこれだけで分かるのか……)
犯人が焦る。
「犯人はあなただ! 証券会社勤務の花森さん!」
坂田は、花森を指差して叫ぶ。
「なっ、何だって!」
亀井、福住、木下の三人が、声を揃えて驚く。
「面白い。何で俺がやったのか言ってみろよ、警部さん。
まあ大体、言う事の予想はつくが」
花森は、余裕の様子で返す。
「この被害者のオーナーは、居合いの元全国優勝者」
「そらきた」
坂田が喋りだしてすぐ、花森が口を挟む。
「この被害者に対抗できるのは、居合いの元全国準優勝者の花森さんしかいない。動機はおそらく、居合いの全国決勝で負けた事でしょう。
昨日、リビングでの自己紹介の時に、あなたの中に数十年眠っていた悔しさがよみがえったんだ」
坂田が、自信ありげに話す。
「フン、ご期待通りの間抜けな推理ありがとよ」
花森は、バカにしたように言う。
「なんですと?」
坂田が怒る。
「まず、居合いの経験者だのうんぬんは関係ねえ。直接刀で相手と戦うスポーツじゃねえしな。
それに、現場の状況を見る限り、刀を持っていたのは犯人一人。全国一位でも、刀を持っている相手に素手じゃどうしようもねえよ。
そのうえ警部さん、この密室はどう説明するんだ?」
花森は、強い口調で聞く。
「木下さん」
坂田は、突然木下に話しかける。
「はいっ」
木下は、焦ったように返事をする。
「この別荘にスペアーキーはないとか言ってましたけど、本当はどこかにあるんじゃないんですか?」
「いえ、ありません」
坂田の質問に、木下は平然と返す。
「本当に?」
「本当です。ここのカギは外国製の特殊なもので、複製はできないようになっているんです」
木下は、又も、平然と返す。
「アホらしい。俺も何度もここに来てるが、そんなもんねえよ」
花森が呆れる。
「……」
坂田は、黙り込む。
翼の難事件 なまくら刀殺人事件 翼タイム @tubasa-555
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