誕生前の第1話 当たり前じゃないからな
まだまだ残暑が厳しい9月の中程。
それでも今日は、雨が降っているわけでもないのに、空全体が真っ白い雲に覆われていて、昼近くになっても過ごしやすぐ感じる。
その一方で、空は明るい。太陽は形は見えるが眩しくない程度。
冷え性なので、真夏の外出はつらい。基本は外気温に合わせて薄着で出かけるのだが、そのままだと屋内の冷房で、手足がかじかんでしまう。スーパーの精肉売り場周辺には、数分も居られない。ときには、上着を羽織ることもある程だ。
だから、今日の気候は非常にありがたい。
久々の有休がこの様な気候の日に当たったのは、日頃の行いのお陰では?などと、ついつい自惚れてしまう。
今年のお盆休みは、仕事で消えてしまった。その上僕の勤務先では、お盆休みと言いつつ、平日は有休の取得促進日の扱いなので、出勤しても通常の勤務扱いなため、休出手当がつかない。会社全体が休みと同じ状態なのにだ。冷房も執務エリアしか稼働していなく、トイレですらサウナの様な状態だった
。
その後もしばらく忙しく、手当は付くものの休出もしていたので、私的にやりたかったことが、ほとんど何もできないまま過ぎてしまった。
今日はその一部でもできたらと、有休を取得した。まずは、美味しい物でも食べに行こうと思う。
ただし、その前に一件用事を済ませる必要がある。
一週間程前になるか、妻から妊娠の報告を受けた。
「しかも、私も驚いたんだけど…」
と、勿体ぶる妻。
妊娠の報告だけでも驚きだが、それ以上のことがあったらしい。
もしかして、双子だったとかか?
「双子なんだって!」
「あ、そうなんだ。」
「なんか、反応が薄くない?」
「いや、今のための最中に予想してたのと一致したから…」
とは言え、驚いたふりをしたつもりだったのだが…。
「それで、来週にもう一度検診することになったから、一緒に来ることはできる?」
妻が通う病院は、分娩ができない。医師が高齢のため、婦人科の外来のみ対応しているとのことだ。
このまま妊娠が継続すれば、転院する必要があるため、その辺りの相談のためにも、付いて来て欲しいらしい。
翌日には、早速一週間後の通院に向けて、有休取得の申請をした。一週間後が待ち遠しくて仕方がない。ようやく仕事が落ち着き始めていたこともあり、ちょくちょく子育てのことを考えていた。
まだ性別も不明ながら、幾つか名前を考えてみては、姓名判断を調べたりする程だ。
そして、一週間後。今に至る。
「このタイミングでわかるってことは、二卵性ってこと?」
「そうだと思う。」
「もし、男の子と女の子だったら、将来別々の部屋を欲しがるかな?」
病院へ向う車の中でも、気分は上がりっぱなしだ。まだ生まれてもいないのに、将来の心配ばかりが話題になる。
きっと忙しくなるだろう。双子だから。
育児休暇は、半年くらいは取得できるだろうか?生まれるまでに、何を用意しなければいけないだろうか?お金は足りるだろうか?
期待に胸を膨らませながら、病院に向う。
病院から帰るときには、自分が父親になることが、確定するに違いない。
家を出てから、2時間程が経過したたろうか。
いつの間にか空は薄暗くなり、強めの雨が降っている。風も強く、窓に雨粒が打ち付けられる音が、部屋中に響いている。
昼前の過ごしやすさが嘘のようだ。
病院の検査が終わった辺りで、天気が崩れ始めた。すぐに出直すつもりで帰宅したものの、再び外に出るのを躊躇う程に強くなってしまった。
もっとも、気分が乗らないのは、雨のせいではないかもしれない。
先程医者に言われた言葉が、何度も何度も頭の中を巡っている。
普段はにぎやかな妻も、口数が少ない。
元々2人とも食べることが好きで、先週から今日の外食を楽しみに、行き先を見繕っていたののに、結局残り物で適当に済ませるという案に落ち着いてしまった。
検査の結果は、
「育ってないですね。」
とのことだった。
パパは君たちに「パパ」と呼ばれたいから、自分のことを「パパ」と呼ぶんだよ 金嵩 宙三 @mojamoja0204
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