パパは君たちに「パパ」と呼ばれたいから、自分のことを「パパ」と呼ぶんだよ

金嵩 宙三

第1話 目標はパパ

 昔、何かで見かけて、好きになった言葉がある。

 「子は、親を超えてこそ最大の親孝行」という趣旨のものだ。

 まあ、好きだと言いつつ、正確な言い回しは忘れてしまったが。


 特に突出した実績もないまま、流される様に普通の人生を送って来たと思う。

 まだまだ親孝行等できそうにないまま、現在は38歳。


 月日が流れるのは、あっという間だ。

 35を超えた辺りで、一日が短くなった様に感じたと思うが、ここ最近でさらに短くなったと思う。

 さらに歳を重ねると、いずれは“明日”の方から迫って来る様に感じるとか。以前はまさかと思ったが、最近ではあながち間違っていないのではないかと思うほどだ。


 原因の一つは恐らくだが、代謝が悪くなっているからだろう。

 大学に進学して以降はほとんど運動もしていないし、会社はデスクワークなので、一日中座ったままだ。その上、ここ2、3年はリモートワークが主になり、出社するのも週1、2日程度だ。

 本当に動く機会が減った。

 食事も会社に入社した頃から、外食ばかりになり、高カロリーの物ばかりを選ぶ傾向がある。

 結婚してから多少は気を付ける様になったものの、夫婦そろって、食べることが好きなので、なかなか歯止めがきかない。

 そもそも、妻との初デートでは、昼食で互いにラーメンと替玉を注文し、その後のおやつ時にはドーナツを2、3個程平らげたほどだ。

 その結果、ここ数年の人間ドックでは、毎年脂肪肝を指摘されている。

 きっと、世の中を認識するのに必要な成分が、適切に体内を循環できなくなっているのだろう。


 そんなアラフォー男の僕だが、1年半程前から、ますます時間の経過が早くなった。

 子育てが始まったのだ。

 結婚したのは29歳の時だったのだが、少しばかりの障害に見舞われたこともあり、子供を授かるまでにあっという間に時間が過ぎた。

 気がつくと7年が経過していた。

 結婚8年目の年にして、ようやく授かった、と思ったら、なんと子供は双子だった。


 そして、僕達夫婦の生活は変わった。

 まずは、昼夜の区別がなくなった。

 自分達の時間は、睡眠時間すら確保できなくなった。

 風呂は、2日に1度しか入れないこともあった。

 外出もほとんどなくなり、出かけたとしても、必要最低限の用事で済ませる様になった。

 テレビやネットを見る頻度も少なくなり、次第に世の中の状況がわからなくなっていく。

 幸い、育児休暇が取得出来たので、2ヶ月だけ仕事を休む事が出来た。

 ただその為もあって、ますます世情には疎くなった様に思える。


 そんな日々だったので、体力的にも余裕はなかった。毎日、昼夜問わずに疲れが溜まったままだ。

 それなのに、突然妙に力が湧く事もあった。

 まるで何かのスキルに目覚めたのではと思える程に。

 だから、まるで異世界にでも転移したかと思える程に、世の中が別物に見えた。

 まあ、ただの妄想でしかないが。

 その後、育休が明ける頃には、少しずつ状況が変わっていった。

 睡眠時間も確保出来るようになったし、昼間は、妻だけでも面倒を見られる目処がたった。

 おかけで安心して僕も仕事に復帰できたし、復帰してもリモートワークが可能なので、在宅の日は適度に子育てに関わることができた。

 週に2、3日は出社も必要なことがあるが、上手く妻と分担して、何とか家事も育児も滞りなくこなせたのではないだろうか。


 月日が流れるのは、あっという間だ。

 双子が生まれて、早くも1年半が過ぎた。

 まだまだ、パパと呼ばれる気配はないが、少しずつ謎の言葉を発するようにはなった。

 何となくだが、最初の山辺りを超えたような気がする。

 きっとこのあとの山もなかなかに険しいのだろうとは思うけど。


 昔、何かで見かけて、好きになった言葉がある。

 「子は、親を超えてこそ最大の親孝行」という趣旨のものだ。

 自分がそれを成せるのかは甚だ疑わしいし、両親にとってそれが親孝行になるかもわからない。そもそも、何をもって「超えた」と判断出来るのか。

 とは言え、我が子達には、何らかの形で成し遂げてもらいたいと思ってしまう。

 だからではないが、これからも二人のために色々とがんばろうと思う。

 まずは、パパと呼んでもらうところから目指そう。

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