圧倒的技巧に唸らされる

ネタバレ全開のレビューをします。この作品は事前情報無しで読んだほうが100倍面白いのでぜひ本作を読んだあとにこのレビューをご覧になってください。

では、本題に入ります。
ひとこと紹介で『圧倒的技巧に唸らされる』と書きましたが、最初は別の文言を書いていました。それは『バイアスによる真実の転化』です。流石に匂わせすぎかなと思い今の形に落ち着きました。
この作品は主人公の独白によってストーリーが進んでいきます。主人公の想い人に対する深い愛情とそれに伴う危うさが地の文で上手く書かれています。たびたび登場する花とその花言葉も本作を彩る魅力のひとつになっていますね。それらによって官能要素も叙情的に見えます。
このように本作は純粋な読み物として非常にクオリティーが高いのですが、面白さを担っている部分は他にあります。それが先に書いた『バイアスによる真実の転化』
要するに叙述トリックです。
圧倒的な筆力により読者は主人公に感情移入することになるのですがそれを逆手に取っています。実はモノローグでは真実を隠しているのです。
我々読者は主人公に対して『深い愛情を持った献身的な女性』をイメージすることになるのですが(まあ、あながち間違いではないのだけれど)本当は歪んだものだったのです。
それが明かされたときの驚きは計り知れません。心中という選択を取った彼女に呆然としてしまいます。
この悲劇的な結末は三人称視点によって書かれます。それがまたやりきれない気持ちにさせられるのですが……
とにかく感嘆しました。ストーリー構成・ミスリードが凄すぎます。カクヨムで読んだ短編の中で一番面白いなと思いました。