福茶
「ふっ。数年待たなくて良かったな」
「「短い時間待たせたな」」
無事に融合を果たせた黄鬼と黒鬼が真っ先に会いに行ったのは、先程山の中で対面した子どもであった。
数年経ったら相手をしてやるよと言ってはその手に持つ大豆を投げなかったが、今はどうやら違うらしい。
妙な気迫を発していた子どもはやはり只者ではなかった。
人間の姿だった黄鬼と黒鬼と、融合し本来の姿を露わにしている今の鬼を同一の存在と認識しているのだから。
「「初めて会った時にはもうわしたちが鬼だと気づいていたのか?」」
「さあ。どっちでもいいだろう。ただ今日は鬼だろうが人だろうが、大人の姿をしたやつには豆を投げられる日だって話だ。まあ、投げがいのある相手には残念ながら出会わなかったが」
「「今は違うだろう?」」
「さあな」
互いに不遜な笑みを浮かべ、そして。
豆まきが開始した。
子どもは全身全霊で大豆を一粒ずつ投げた。
融合した鬼は全身全霊で受け止めた。
自身の身体と同じ大きさの大豆を。
大豆に纏う邪気を。
重い。
とてつもなく。
そんじょそこらの鬼では受け止めきれないと断言できる。
((身体が小さくなった時は絶望したが、すぐに解消された。何故なら))
「「遠慮は要らないぞ、子ども。わしは今、力が迸っておる!!」」
「元よりその気はない」
「「ハハハ。その意気や良し!!」」
「そっくり返してやる」
融合した鬼も子どもも感情を、能力を剥き出しにしては、凶悪な笑みを顔に刻み、豆まきを続けたのであった。
「楽しかったですねえ」
「………まあ、な」
夕焼けが目に染みた頃。
融合した鬼は限界を悟って、子どもに話しかけた。
また豆まきをやろうぞ、と。
返事をもらう前に鬼界へと帰還したわけだが、子どもは満足な笑みを見せてくれたのできっと来年も豆まきをすることになるだろう。
「来年もお願いしますね。黒鬼さん」
「仕方ねーからな」
鬼界に帰還しては融合が解けた黄鬼と黒鬼は、とても満ち足りた気持ちで鬼花に邪気を捧げる中、どちらともなく拳を上げて近づけ軽く合わせては離し、目を瞑った。
「すごいお子さんでしたね」
「………まあ、な」
「楽しそうね」
「うん。お母さん。俺、すっごい楽しかったよ!豆まき」
「山の中で相手してくれる大人か鬼が居たの?」
「うん。でこぼこ鬼!」
「来年も一緒に豆まきできたらいいね」
「俺の相手が務まるならね」
母親に頭を撫でられた子どもは、昆布の佃煮と梅干し、豆まきの大豆三粒入りの熱湯である福茶を飲んで、また来年と呟いたのであった。
(2023.2.2)
昆布の佃煮と梅干し、豆まきの大豆三粒 藤泉都理 @fujitori
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