鬼穴
じゃあ自分もそろそろと移動を始める屋台の主に手を振って見送った黄鬼と黒鬼は、自分たちもその場を離れて歩き続けて鬼穴がある場所で止まった。
鬼穴とは、鬼の精神を安定させてくれる場所であった。
「肉体の不調も治してくれりゃあいいのにな。そしたらこんな面倒なことにならなかったのによ」
「まあ、ですね」
黒鬼は苦々しい表情を浮かべた。
黄鬼は曖昧に笑った。
黒鬼は黄鬼の態度が気に食わないと鼻を鳴らそうとして、寸での所で止めた。
これから融合する相手なのだ。
少しは歩み寄らなければ。
「あー。じゃあ。よろしくな」
「はい」
黒鬼は手を伸ばした。
黄鬼はにっこり笑って黒鬼の手を掴んだ。
互いに一度小さく上下に揺さぶってのち、やおら手を離して人間の姿を解き露わになった額に生える一本角を取り、触れ合わせて目を瞑った。
伝わってくるのは、微かな脈動。
大きさも速さもてんでばらばら。
だったのが。
徐々に徐々に重なり合って行く。
脈動が大きくなっていく。
脈動が緩やかになっていく。
理由は違えど、節分の行事に加わりたい気持ちは一緒なのだ。
だから。
同時に目を開いた瞬間。
黄鬼と黒鬼から眩い光が発せられた。
(2023.1.20)
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