百円




 ふざけるな。

 即座に突っぱねようとしたが、しかし。

 口は言葉を発さず浅く閉じただけ。

 拳で軽く押したり引いたりしながら、お猪口を二、三度動かして。

 黄鬼を見た。


 どうしても。

 どうしても花道を歩きたい。

 それができるのならば。

 可能性があるのならば、


「頼む」

「はい」


 出会ったばかりだが心底気に食わない黄鬼の手さえ取ろう。




 黒鬼は離れるぞと言った。

 黄鬼はお題を払いましょうと言った。

 屋台の主は百円ですと言った。

 黒鬼は安すぎる五百円にしろと言った。

 黄鬼は安くていいですねと言った。

 屋台の主はこらからどうぞご贔屓にしてくださればそれでいいと言った。

 黄鬼は是非と言った。

 黒鬼は適正な価格で提供するならと言った。

 屋台の主と黄鬼は笑った。











(2023.1.13)



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