【異世界】忌み子が活躍する話
山田 勝
【異世界】忌み子が活躍する話
「店主、ここのレストラン気に入ったわ。私がもらって差し上げましてよ」
「え、と何を仰せになっているのですか・・・」
「私は、ローゼン伯爵家のザイラーでしてよ。ここはとても気に入りましたの。父上からお前も経営の勉強をしろと言われて、私がここの経営者になって差し上げますわ」
・・・私は貴族令嬢のザイラー、といっても宮廷伯の貧乏貴族から、裏社会の父上が借金の質に取り上げたのよ。父上は強引に養子になり、跡取りになった。これで私の身分は伯爵家の令嬢よ。
私は裏社会のお嬢から本物の令嬢になった。
この領地の領主一家は王都に住んでいる。しかも、父上が上級役人たちを賄賂で囲い込んでいる。
つまり、やりたい放題!
「さあ、レシピ帳と店の権利書を持って来なさい。タダとはいってないわ。ボム、渡してあげて」
「はい、お嬢!」
お付きの用心棒が、書類を手渡す。そこには・・
「何ですと!このレストランとレシピが大金貨3枚(300万円)安すぎます。それも支払期限は無期限・・踏み倒すのが前提じゃないですか?」
「はあ、私は貴族よ。嫌なら決闘裁判よ。ホホホホッ」
☆☆☆領都繁華街
・・・はい、こうして、30年かけて研鑽を積み、貯金して、立ち上げた店を取り上げられました。そして、私は、ここで、屋台をやっています。
格付けギルドでは星三つ頂くまでいったのに。
「どうりで上品で美味い味と思ったぜ」
「有難うございます。親分さんはきっちり見廻りをして下さいますし、場所代も適正です。初めから親分さんを頼みにしておけば良かった。
何せ、ここは領主不在の地ですから、ご領主一家は王都に移住され、領地に無関心だとか・・」
「おい、おい、12歳になられた長女様が残っているぜ。それに、親分さんはやめてくれないか?私的警護はこの国では合法だぜ。俺はフランキー商会のフランキーだ。お嬢、この話、如何されますか?」
「その長女様としては・・・遺憾の意を表明するわ。フランキー、今からそのレストランに行くわよ。ミヤ、ギリースに時機を見て動けと伝えて」
「ヘイ!」
「お嬢様、畏まりました」
・・・フランキーの後ろにメイドを連れた令嬢がいた。黒髪で目はエメラルドグリーン。上等な平民のドレス、どこかの商会の令嬢か?と元レストランオーナシェフは訝しむ。
☆☆☆レストラン
「・・目がチカチカするわね。外装も内装もピンク一色ね。それにイスとテーブルの脚が猫の足に加工されているタイプのものね。悪趣味な乙女趣味に改装したのね」
「へい。ディナーの時間にも関わらず人も少ないですね」
・・・少女はメニューの中から、一番高いスズキの姿煮を注文した。
しかし、看板料理にも関わらず一時間後にやっと出てきた。しかもウェイターは
「チ、面倒な料理頼みやがって」と小声でうそぶいてドンと乱暴にテーブルに置く。
「・・お嬢、料理に罪はありません。まずは食べましょうぜ」
「待って、この魚、怪しいわ」
と少女は、懐からハンカチを取り出す。ハンカチは二つの木の棒を包んでいた。
「これは箸というのよ」
「・・ハシ?・・これも前世の記憶というやつですか?ほお、器用なものだ」
少女は箸でスズキを切り分ける。
「・・・これは?ミミズ!」
「そうね。これは淡水の肉食魚ね。しかも下処理がされていない。ちょっとオーナーを呼んで!」
とウェイターを呼ぶが
「はん。オーナーはこの領地で最も高貴なお嬢様です。会うなら小金貨5枚(5万円)を要求します」
と憮然と言う。
「そ、馬鹿に会うのに小金貨5枚払うのだったら、ドブに捨てた方がまだチャポン!と音がして有意義ね。なら」
ガチャンと
少女はグラスを床に叩きつけた。
「お前、洒落になってねえぞ。弁償しろ!大銅貨5枚(5000円)だ。これで勘弁してやる」
すると、少女は小銅貨2枚(200円)を床に投げ捨て
「こんな不揃いのグラス、小銅貨2枚が適正価格だわ。拾いなさい」
と言い放つ。
「お前、マジで洒落になってないぞ。皆、集まれ、この女さらうぞ!俺たちはアバン一家、後ろにはローゼン伯爵家が付いているんだ!」
騒ぎを聞きつけ。オーナーのザイラーが三階のオーナー執務室から降りてきた。
「まあ、この地で、最も高貴な貴族令嬢である私の店で暴虐を働くなんて愚かな娘ね。痛い目に遭わせなさい!」
「「「「はい、お嬢!」」」
☆数十分後
バキ、ゴキ!と壁に人の顔を叩きつけている音が、もう数十分続いている。
壁には血がべっとりついている。
「ねえ、さっきの言葉、もう一度、言って下さらない。この地で一番高貴な令嬢って誰?」
「・・・ごめんなさい。許して・・グスン」
「だめね。答えを頂けないなら・・」
「ヒィ、貴女でいいですわ・・」
「『いいですわ』?・・て何?」
ゴリゴリと壁に顔がこすりつけられている音がする。
壁にこすりつけられているのはザイラー、やっているのはエメラルドグリーンの瞳の少女の方だ。
周りから見れば、ザイラーは宙に浮いて、自分から壁にぶつかっているとしか見えない。
魔導師がみれば、闇魔法で、陰で手を形作り猫の首を掴むように、ザイラーを掴み。壁に打ち付けていることがわかる。
・・・私はこの地の領主、アレキサンダル公爵家の長女エリザベス。
私の魔法の特性は闇魔法、闇魔法は魔族特有の魔法と言われ、私はそれだけで忌み嫌われ虐げられてきた。
家族旅行にも連れて行かれず。あげくに領主代理として、この領地に置き去りにされたけど、重畳ね。ウミが向こうから吐き出して欲しいとやってくる。
周りにはウェイターが数人、「ウウッ」とうなりながら倒れていた。
「死、死んじゃう・・・」
「え、殺すつもりだけど」
「お嬢、今、殺したら何かダメな気がします。もう少し引っ張りましょうよ」
とフランキーが提案する。
「それは貴方の感想でしょう。でも、もう、飽きたわね」
その時、外から喧噪が響いてきた。
この領地の騎士団が到着したようだ。
騎士団とこの地の裏社会の男たちの集団が、レストランに突入する。
物陰に隠れて震えているザイラーの手下の者たちは助けが来たと歓喜する。
やっと、この暴虐から逃れられると。
しかし、次の会話で絶望する。
「エリザベスお嬢様、ギリースただいま到着しました。騎士100名を連れて参りました」
「そ、ちょうど良い人数とタイミングね」
「フランキーの親分、繁華街の警備残して来やしたぜ」
「親分言うな!」
そして、エリザベスと呼ばれた少女は指示を出す。
「ギリースは、この建物内の物を壊して、人は傷つけてはいけないわ。抵抗するなら殺してもいいわ」
「「「承知しました」」」
「おい、お前ら、交通整理をしろ。関係ない者を巻き込むな。ローゼンの奴らが来たら、無理して戦うな。知らせろ」
「「「「ガッテンだ!」」」
☆☆☆ローゼン伯爵家
「何!娘のレストランが荒らされているだと、どこの裏組織のものだ。命知らずめ。人を集めろ!」
ザイラーの父、アバンは配下のゴロツキ50名を集めて、レストランに到着するが・・・
「何?騎士団が、完全武装の騎士がレストランで暴れている。何が起きている!」
野次馬に問うた。
「いや、何か高貴な方が危険を感じたので、騎士団が警護出動したって言ってましたよ」
・・・そんな馬鹿な。この領地は、領主一家は王都に移住して、忌み子が、形だけの代理として残されていると確かな筋の情報だ。
騎士相手に、うちらでは分が悪い。
ここは賄賂を渡している上級役人に仕事してもらおう。
「おい、誰か、衛兵隊長と行政庁の上級役人を連れて来い!」
・・・
衛兵隊長と上級役人がやってきた。この地の治安を守る役職のトップと行政のトップだ。
彼らは、エリザベスが忌み子であり、形だけの領主代理だと信じて疑わないので、
高圧的に接した。
「エリザベスお嬢様、余計な仕事を増やさないで下さい!」
「そうです。いくら家族に見捨てられたからって、このような方法で無聊を慰めないで下さい。すぐに、この野蛮な行為を止めさせて下さい!」
エリザベスは、
「お前たち、主人である私に命令したわね」
バキ、パキと陰魔法の腕で、彼らの首を躊躇なく折った。
「騎士団を掌握している私を侮る無能はいらないわ」
「ヒィ、逃げろ」
遠巻きにしていた。アバンは、娘とレストラン内の手下を見捨てて逃げ出した。
☆次の日
・・・いったいどうゆうことだ。
何が悪かった。こうなったら、賄賂だ。今まで賄賂で危機を切り抜けて来た。
「エリザベスにワビを入れる。金を持って行くぞ!誰か付いてこい」
「頭!お嬢様が、晒されています」
「「「何?」」」
領主館前、広場に罪人として、ザイリーが十字架にはりつけにされていた。
顔は倍に膨れ上がり、手は関節では曲がらない方向に曲がっている。
「ウウ」とうめき声を上げているところから、生きているようだ。
ここで、取り返しに行かなければ、アバンの裏社会での立場は無くなる。
ここまでするとは、和解なしで徹底的に抗争することを意味する。
「お嬢様、調査結果が出ました」
執事長が、王都に魔道通信で情報屋に問い合わせた内容を報告する。
「やはり、アバンは正式にはローゼン伯爵家を継いではございません。貴族院に届け出は出ていないとのことです」
「そ、内々で処理して貴族位を買った気になったのね。まあ、いいわ。この女、庶民なら、ことが終われば、放逐でいいわ。アバンの家に向かうわよ」
「畏まりました。お嬢様」
騎士団がアバンの屋敷に到着する。
エリザベスは昨晩と同じ指示を出す。
「推定無罪よ。この屋敷で、ただ雇われているだけの領民がいるかもしれない。アバン以外の人は傷つけてはいけないわ。物を壊して屋敷の機能を失わせなさい。ただし、少しでも抵抗したら殺しなさい」
「「「御意」」」
その時、屋敷からアバンが飛び出てきた。
「エリザベス様、申訳ございません。お金です。これで勘弁して下さい!私は貴方の手下になります!どうか私の命を助けて下さい!」
「あちゃ」とエリザベスについてきたフランキーは思わず声をあげる。
・・・悪手だ。エリザベス様は誇り高い方だ。俺も、去年、配下がお嬢様と揉めたとき。
俺は、土下座して、己の命を対価に差し出して配下の助命を申し出て、信用を得たのに、
「ねえ、貴方の娘は・・いいの?」
「あれは不出来な娘でして、無礼を働いて申訳ございません。宜しければそちらで処分して頂いて結構、忠誠の証・・」
ゴキゴキ!
アバンは最後の言葉を言う前に、首がねじれた。
「・・・お前も娘を捨てるのね」
「お嬢!・・・」
「お嬢様」
完全勝利であるが、何故かエリザベスの背中は寂しそうだった。
☆☆☆領都繁華街
「え、親分、店が返って来るって?」
「ああ、何でもがザイラー改心して自分から店を返すと言ったそうだ。賠償金として、改装費も出すそうだ。大工ギルドが改装の指示をしてもらいたいって言ってたぞ。ギルドに行ってこい」
「親分さん。有難う、有難う、有難う!」
「いや、俺は何もしてないよ」
・・・
「お嬢、良かったんですか?お嬢がやったことでしょう?」
「この規模の行政体だと、為政者の個人プレイは、あんまり庶民に見えてはいけないのよ。法で統治されている建前だからね。法で解決できないのは正義のアウトローの出番よ。それが貴方よ」
「それも、異世界の知識ですか?」
「・・・さあ、私の感想よ」
「本音は?」
「ふ、アバンから徴収したお金が思ったよりもあったから、アバン討伐の話は隠したいだけよ。知ったら関係各署が予算!と色めき立つわ」
「かないませんな。お嬢様は12歳でしょう?」
「年齢を聞くなんて、フランキー、更におっさん臭いわよ」
(本当は前世の記憶があるから、合計40歳とは言えないわね・・)
・・・やがて、この領地は、治安が回復し、景気が徐々に上向きになっていくことになるが、エリザベスの暴虐の噂が広まることになる。
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