第三章

第三章 1

「残念ですが、もう病院に着いた時には手遅れでした」


医者の一言に僕は落胆した。遅かった。僕がもっと早く救急車を呼んでいれば、もしかしたら助かっていたかもしれないのに。


風島を見た時、僕は動揺で動けなかった。そこを近くを通りかかった人が急いで救急車を呼んでくれた。その時にはまだ、風島は微かに息をしていたんだ。


「これは他殺の可能性があります。よろしければ、お話を伺ってもいいですか?知っていることだけでも大丈夫です」


警察が僕に話しかけてきた。このまま黙っていてもしょうがない。僕は警察に先程のことを話した。


「横断歩道を渡っている時に男が大きなキャリーケースを引いていたんです。その男が通ってきた道にぽたぽたと血がたれていて。それを見て僕はその男を追いかけました。そしてあの橋の下で風島が倒れているのを見つけました」


僕が言えることはここまで。


「話してくれてありがとう。ここに親御さんを呼んで迎えに来てもらおうかい?」


「…いいえ。両親は今家にいないので僕一人で帰ります」


「そう…。でしたら我々が送ります。一人だと危険ですから」


 断る理由もなく、警察の人に送ってもらった。家に帰り、力が抜けたかのように床に崩れる。風島が死んだ。なぜあいつが?誰かに恨まれたりでもしていたのか?


 しかしそんな風には思えない。そうだ。神谷、神谷はどうしているんだ。


 バックからスマホを取り出そうとする。なかなかスマホをつかめない。手が、震えている。


『神谷。今大丈夫か?』


『うん。どうかしたの?』


『話を、聞いていないのか?』


『あ、風島君のこと?聞いてるよ』


 メールごしだと神谷は意外にも冷静を保っているのだとわかる。


『本当に残念だよ。まさか亡くなるなんて』


 何も知らないような言葉が返ってくる。


『私今から風島君の元へ行こうと思う。透夜君も一緒に来る?』


『僕はいいや。気をつけてね』


『うん』


 そこで会話は途切れた。



翌朝学校に行くと神谷の周りには女子達が群がっていた。大勢に囲まれよく見えなかったが神谷は、泣いているようだった。


そっか。それくらい悲しかったんだ。それほどあいつの事が…。


「みんな、席に着け」


先生が教室に入って来てそうそう言う。


「…皆も知っての通り…風島君が亡くなりました。先生も…犯人が許せません。みなさんも同じ気持ちでしょう。…まずは風島君に黙祷を捧げましょう…。皆さん何か知っていることがあれば先生に教えてください。先生はいつでも君たちの味方ですから。困っていること、悩んでいることなんでもいいです」


そんな綺麗事を並べている先生を僕は睨んだ。

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