第二章 9

「あのさ、宮下もこの雛菊デイジーに入っていたの?」


話を大体聞き終えたところで質問した。


「いいえ、入っていなかった」


「…どうやって宮下を、自殺させるよう唆したの?」


震えた小さな声で聞いた。宮下はそう簡単には死なないやつだ。それをどうやって乗り越えたのだろう。


「私が追い込んだんじゃなくて、へパン達が独自に動いて宮下君を自殺に追い込んだの」


「…えっ」


「さっきも言ったでしょう?私に依存させた後に私の悩み、願いを言う。彼ら、ペパン達は何でもそれをこなしてくれるの」


そういうことか。分かった。神谷に依存した奴らは神谷の力になりたいという必死な思いでなんでも悩みや願いを叶えてくれる。


そしてそれが、人の命を奪うことであったとしても。


神谷は今までずっと自分の手では殺さず、雛菊にいる依存している子達、ペパンに行わせていたんだ。


例え捕まったとしてもその子たちは決して神谷のことは言わない。神谷の力になりたいから。神谷が命の恩人だから。


なにもかも聞いたところで、僕は俯いた。これ以上、神谷の顔を見てられない。今突き付けられた現実を見たくない、知りたくない。


 けれど現実からは逃れられない。


「…わかった。話してくれて、ありがとう」 


「ううん。また何か知りたかったら言ってね。透夜君になら教えてあげる」


 神谷は笑顔だった。どうして君はそんなに笑顔なの?


 確かに僕は神谷に笑っていてほしかった、昔のように。けれど今の神谷の笑顔は違う。


今の神谷の笑顔はどことなく偽りの笑顔に見えた。


僕は背筋がゾッとする恐怖を覚えた。


 そんな僕の恐怖心は一ヶ月後の出来事により、更に増すことになる。


 その日はいつも通り学校に向かっていた時の事だった。横断歩道を歩いていると、横を大きなキャリーケースを引いている男が反対方向から歩いてきた。


 そんなのありきたりな旅行客だと、気にもせずにいたが男が通ってきた方向を見ると目を見開くことになる。


 男のキャリーケースから真っ赤な水のようなものが垂れているのだ。その瞬間すぐに悟る。あれは旅行の荷物じゃない、人を運んでいるんだ。


 そのまま無視すればよかったものの、見て見ぬふりはできない、そう思いこっそり男の後を着いていく。


 男がやってきたのは河川敷だった。橋の下へと歩いていく。物陰から見ていたが視界に入らなくなり、また少し近づいていく。


そして肩にかけていたカバンをドサッと地面に落とす。目の前には同じ制服を着た男が寝転んでいる。


その男を僕は知っている。頭が良くて、性格も良く、みんなから尊敬される人。そして神谷の彼氏でもある人。


「ふう…じま…?」


そこには血だらけになった風島が倒れていた。

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